物理系魔法少女、運命には抗えない
魔法少女とは何か、結局明確な答えは得られないでいた。
世界を戦争に導く悪魔の討伐、そして悪魔を倒す為に敵対する組織的なモノ、『使徒』が存在する。
使徒達の最低レベルは5と考えられており、今の魔法少女達では勝てないらしい。
魔法少女達には天使が加護を与えていてるらしい。
それらの情報は先生と呼ばれる魔女から貰ったらしい。
⋯⋯要するに、天使と悪魔のゲームに魔法少女と使徒と言うキャラクターが用意されたのだ。
『天使は世界の敵です。その事だけは頭に入れておいてください』
紗奈ちゃんのこの言葉が俺の脳裏に過ぎる。この子達の話を聞く限りだと、世界を守る役目をしていそうな天使達。
魔女ってなんだ? どんな人なんだろうか。
紗奈ちゃんは何を知っているんだうか。
ま、俺程度が考えたところで結論や仮説が出る訳じゃないし、面倒なのでこの考えは捨てよう。
今日、紗奈ちゃんをどう説得して、晩御飯に辛い物を無くすかが最も重要な事なので考える。
「アカツキさんのレベルを上げるには、上のランク帯のダンジョンを攻略するのが手っ取り早いわ」
「そうだね。アオイちゃんが言うなら、そうだと思うよ」
ミズノさんはアオイさんのイエスマンかもしれない。
こう言う人間関係の把握は重要だ。
問題はミドリさん。
能天気なのか、テンションの高めの女子だ。
こう言う陽キャって地味に察しが良いから、俺の中身がバレてしまうかもしれない。
バレたら社会的に詰む。
だってこれ、一種のパパ活だよ?
「アカツキさぁん大丈夫?」
ミドリさんが覗きながら話しかけてくる。
「大丈夫です」
「そかぁ?」
この空気に馴染めないだけだ。
「それで、アカツキさんはどうする? 自分がレベル上げを手伝うつもりだけど⋯⋯一つ上のランク帯のダンジョンで活動できると思うかしら?」
「あ、いや。レベル2で行けるランク帯のダンジョンでまずは配信を⋯⋯」
「そかぁ! アカツキさぁんはアオイちゃんっと一緒で配信者なんだよね」
⋯⋯ん?? んん?
あ、アオイさんって配信者なの? 俺知らないんだけど。
ドンッと、フォークを机に突き刺すミズノさん。
「アオイちゃんのチャンネルを⋯⋯知らないの?」
「ミズノ、殺気を飛ばさない」
「はい」
ん〜この二人にどんな事があったのかは分からないけど、怖いな。
関わりたくないや。
「あ、じゃあコラボする?」
「コラボって、互いにメリットが無いと⋯⋯俺だけじゃないですか?」
「そんな事無いよ⋯⋯ほら」
アオイさんのチャンネル名は、蒼炎の魔法少女アオイとそのままで、俺のチャンネル名は魔法少女アカツキ。
「へ、適当ネーム」
⋯⋯あ、俺のチャンネル登録数がいつの間にか3万になっていて、アオイさんの方は⋯⋯5千人だ。
「⋯⋯ね?」
「なんか、ごめんなさい」
明日から夏休みらしく、明日の月曜日にコラボ配信及び、俺のレベル上げ特訓が始まる。
月曜日なら紗奈ちゃんも仕事なので問題ないだろう。
「それで行くダンジョンなんだけど、何か要望はある?」
「殴りが通じる敵が多いと嬉しいです」
「⋯⋯そう。魔法は使いたくないのね」
「それと魔力尽きるまで殴らないといけない、残業確定コースは遠慮したいです!」
「アンデッドとかも自分の魔法でどうにかなるから問題ないわよ」
「なら特には⋯⋯」
アオイさんが考え込むようにスマホを操作する。
「せっかくなら撮影ばえを狙っていきたいわね」
良く考えてくれる。
決めたのか、場所を教えられた。
⋯⋯後は俺が紗奈ちゃんから許可を貰うだけだな。鬼難易度。
「連絡先の交換をしましょう」
「ああ⋯⋯あ?」
連絡先、当然スマホを使う、つまり⋯⋯俺の本名がバレる。
メッセージアプリの登録名を変えたところで、紗奈ちゃんに魔法少女モードがバレる。もう既にバレてる可能性はあるけどさ!
まずい。
⋯⋯行けるか?
「その。スマホ忘れて」
「そう。問題ないわ。一応はプライベート用の連絡先も欲しかったけど、魔法少女には共通して渡しているスマホがあるから、それを使って」
そう言って渡される赤色のスマホ。
金持ちかよ。
「えと、お金⋯⋯」
「大丈夫よ。その程度のお金なら、ダンジョンで数時間活動したら稼げるから」
なんだろう。無性に腹が立つ。
貴様はお金の恐ろしさを知らないのか?
そんなあまっちょろい考えをしていると、いずれ足元を掬われるぞ。
「アオイちゃんの月収500万だしね〜」
「まぁ、パーティを組んでサポーターも雇えば、計画的に進めたらそのくらいはね⋯⋯どうしたの?」
「いえ。ただの尊敬の土下座です」
俺の社会人時代よりも月収が高い。相手の方がカーストが上だ。
その後、俺は変身を解いてから家に帰り、服を手洗いしてシャワーを浴びる。
念の為に新しい服に着替えて、万能魔法で香水をイメージして振りかける。効果があるって信じてるぞ。
紗奈ちゃんを迎えに行った。
「あ、星夜さん」
「こんばんわ。今日はごめんね」
「い⋯⋯え? スンスン」
またか?
だが、大丈夫だ。
「甘い匂い⋯⋯カフェとかでも行ったんですか? それだと男だけってのは考えずらいね。⋯⋯で、誰と行ったの?」
「紗奈ちゃんって犬みたいだよね」
「犬みたいに可愛いって事ですね」
「その通り」
「今日も激辛フルコースね」
「⋯⋯素直に話します」
とりあえず、友人とその彼女とカフェに行った設定にしてみた。
二人が結婚するらしく、その相談だ。
俺の全力の嘘は⋯⋯紗奈ちゃんには通じないで、昨日の数倍は辛かった。
紗奈ちゃんは普通の料理だった。
紗奈ちゃんには嘘も通じないようだ。辛いぜ。
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