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カメラマンの父と昏睡状態の娘(脚本)

作者:

登場人物

山内千愛ちあ(6)→(23)

山内剛志つよし(38)→(55)

医師(38)→(55)

剛志のファン(56)→(73)


1(未来)父と娘で山で写真を撮っている

山を俯瞰で映す。


山の中の視界が開けた絶景スポットに55歳の男、山内剛志と23歳の女、山内千愛がいる。二人は親子関係。二人で風景の写真を撮っている。


千愛「お父さーん、やっぱり衰えてないね!上手い!さすがプロカメラマン!」


剛志「ありがとう!千愛もよく撮れてる!さすがプロカメラマン!」


千愛「お父さん!馬鹿にしてるでしょ!」


剛志「いや、本当によく撮れてるよ!」


真剣な表情になって、噛みしめるように


剛志「よく撮れてるよ。」


一呼吸置く


剛志「じゃあ、撮ろうか。」


一呼吸置く


千愛「うん!」


石の上にカメラを置き、二人で風景を背に集合写真のカウントダウンシャッターを切る。

2   (現在)病院の病室

病院の俯瞰映像。


病室のベッドの上にいる千愛。千愛は患者服で点滴を打っていて、眠っている。


千愛を悲しそうな眼差しで座って見ている剛志。

3   (回想)千愛が子供のとき。山の中。

山を俯瞰で写す。


山の少し開けている絶好の撮影スポットにいる千愛(6歳)と剛志。幼い千愛ははしゃいでいる。剛志は風景のカメラを撮っている。


千愛「パパー!見てみてー!」


剛志はカメラのレンズに目を向けたままで、千愛を見ていない。


剛志「千愛―。あんまりはしゃぐと怪我するぞー」


剛志を映したまま。


千愛「千愛は怪我しないもーん。…わあ⁉」


千愛が転ぶ音がして、すぐさま千愛を見る剛志。


千愛にカメラが切り替わり、転んで泣いている千愛。


剛志「ほら、だから言っただろ。あんまりはしゃぐと怪我するって。パパに見せてみろ。パパが治してやる。痛いのはここか?」


千愛「うん…」


千愛の膝をさすり、「痛いの痛いの飛んでけ」をする剛志。


剛志「どうだ?痛いのは消えたか?」


千愛「こんなので治るわけない…」


剛志「まあ、確かに…。じゃあ、痛いのが消えるまでお父さんがおんぶしてやる」


千愛「やったー!」


千愛をおんぶする剛志。


千愛の喜んでる顔を映す。


剛志の微笑んでる顔を映す。


×××


さっきとは別の開けた絶好の撮影スポットに着いた(冒頭の山と同じ場所)。


剛志「もう歩けるか?千愛」


おんぶしている千愛に聞く剛志。


剛志の背中に頬を付けながら、笑顔で答える千愛。


千愛「パパー、まだいたーい」


剛志は笑顔になり、何かを企んだ顔で言う。


剛志「今から、綺麗な背景を背にして、二人の写真を撮ろうと思ったけど、千愛はパパがおんぶしたままでいいよね?」


とろけた笑顔から真剣な表情になる千愛。


千愛「千愛もう足痛くないから、早く下ろして!」


千愛を下ろす剛志。笑ってる剛志。


剛志「急に足治ったね。写真撮るときにおんぶは嫌なんだ」


千愛「写真はずっと残る!だから、おんぶされてる写真を撮られたら、みっともない子供っぽい姿がずっと残っちゃう!千愛はもうお姉さんだから二本足で立つの!」


剛志「でもさっき、パパに甘えてたよね?千愛はまだお姉さんじゃ、ないんじゃない?」


剛志が悪態をついたように千愛に聞く。


千愛「千愛は大人になっても、パパに甘えるから、それは関係ないもん!」


胸を張って答える千愛。


悪態をついた剛志も、予想以上に嬉しい言葉言われて驚き、照れてしまう。


その照れを隠すように千愛に指示をする剛志。カメラを大きな石の上に置く剛志。


剛志「千愛、そこに立って」


千愛「ここでいい?」


剛志「おっけーいいよ。じゃあ撮るよー」


カメラのタイマーを押し、急いで千愛の元に駆け寄り、写真を撮る。

4   (現在)病院の中

その時に撮った写真が入っている写真立てを映す。その写真立ては棚の上。


剛志がその写真立てを座りながら眺めてる。


ベッドで寝たきりの千愛に視線を移す剛志。小声で喋る剛志。


剛志「俺がしっかりしていれば、千愛はこんな目に合わずに済んだのに…。千愛をこんな風にしてしまったのは俺の責任だ…。」


頭を抱える剛志。

5  (回想)山の中〈先ほどの回想の続き〉

千愛「パパー。見せて見せてー」


千愛にカメラの写真フォルダを見せる剛志。


剛志「どうだ?」


千愛「うん!よく撮れてる!さすがプロカメラマン!」


その言葉に笑顔を浮かべる剛志。


一人で写真を眺める剛志。


千愛「パパー!千愛はお姉さんだから、もう転ばないもーん」


再びはしゃぎだす千愛。


写真を眺めながら答える剛志。千愛のことは見ていない。


剛志「また怪我するぞー」


剛志は写真を眺めながら呟く。


剛志「いい写真だなぁ。これからも、千愛が大きくなっていく成長過程を写真に収めていこう」


千愛「うわ⁉」


剛志を映したまま。さっき転んだ時と同じ声を出す千愛。


カメラを見ながら答える剛志。千愛のことは見てない。


剛志「ほら、言わんこっちゃない。今度はおんぶしないぞー、千愛」


千愛からの返答がない。


剛志「千愛ー。返事はー?」


顔が真っ青になる剛志。


写真を見ていた剛志が、千愛がいた方向に視線を向ける。


剛志「千愛⁉」


千愛の姿がそこにはなく、千愛の靴が片方あるだけだった。


急いで山の斜面を見る剛志。


山の斜面のはるか下には傷だらけで倒れて意識を失っている千愛がいた。


剛志が叫ぶ。


剛志「千愛―!」

6(回想)病院の手術室の前

サイレンを鳴らして走っている救急車を映す。


病院を俯瞰で映す。


手術室の扉についている手術中の看板の光が消える。


光が消えたのを見て、祈った手を額につけて、目をつむりながら、俯いてベンチに座っていた剛志が立つ。


手術室から医師が出てくる。


剛志「先生…。千愛は…。千愛は無事なんでしょうか…?」


剛志は焦点の定まらない目で医師に聞く。


剛志「私のせいで…。私のせいで千愛は…」


剛志は医師の返答を待たずに、医師に抱き着き、泣きながら呟く。


医師「山内さん、落ち着いてください」


医師の淡々とした声に、剛志は正気を取り戻し、医師と向き合う。


剛志「すいません。取り乱してしまいました。それで、千愛は無事なんでしょうか?」


医師「千愛さんの手術は成功しました」


剛志「よかったぁ…」


両手を左胸に当て、安堵し、上を向く剛志。


医師「ですが…」


上を向いていた剛志は、すぐさま医師に顔を向ける。


医師は一呼吸をつき、難しい顔をしながら続ける。


医師「今後、20年は目を覚まさないでしょう」


剛志「…え」

上の空な表情で答えた剛志。


医師「命があるだけ奇跡なくらいです」


医師は噛み締めた表情で呟いた。

7写真展覧会場

閑静なショッピングモール。


その一室のドアを映す。


外の立て看板には「山内剛志の写真展覧会」という文字。


中には写真パネルが飾ってある。


自分の作品を虚無の目で見つめる剛志。


その剛志を見つめる剛志のファン()。


剛志のファン「山内さん、よ!」


突然声をかけられて驚く剛志。

剛志「ああ、どうも。いつも来ていただき、ありがとうございます」


剛志のファンは胸を張って答える。


剛志のファン「あったりまえよ、俺はあんたの大ファンだからよ」


剛志の俯いて、力ない笑顔を映す。


剛志のファン「大ファンだから言わせてもらうけど、あんたどうした?」


剛志は驚き、俯いた顔を上げ、剛志のファンに向ける。


剛志「ど、どうしたって何ですか?私、元気なさそうですか?」


剛志のファン「それもそうだが、作品にも元気がなくなってるよ」


剛志のファンが写真パネルに指をさす。その写真パネルは、千愛が昏睡する前に撮った山での写真。


剛志のファン「この写真は素晴らしいんだけど、それ以降の写真には生き生きとした生気を感じないね。背景が全部、曇りか雨だし、山での写真が一枚もない。悪天候にハマるのはいいけど、あんたの良さが消えてるような気がするわ」


剛志「そうですか…」


剛志のファン「娘さん、最近見ないけど元気か?」


剛志「え、ええ。元気ですが、最近は来たがらないんですよ」


剛志は焦ったが、無理した明るい声で答える。


剛志のファン「そうか、もう娘さんは年頃だもんな。娘さんの意思を尊重してやりな。じゃ、もっとあんたの作品見たいから、さらば」


剛志のファンは別れを告げ、剛志の写真パネルをじっくり見た。


その様子を剛志が見て、呟いた。


剛志「娘さん、元気か?…か…」

8  小学校前

小学校を俯瞰で映す。


小学生が校庭で体育をしている。


剛志がその様子を小学校の外で眺める。


見るのをやめて去る。

9病院

 植物状態の千愛(10)を見つめる剛志。剛志は小学校前の時と同じ服装。

10公園

公園を俯瞰で映す。


カメラを持って、公園を歩いてる剛志。


学生の集団(引率の先生もいる)とすれ違う剛志。


学生の集団は全員カメラを持っており、全員同じ服を着ていて、胸の部分には「〇〇中学校写真部」とプリントされている。


楽しそうなに写真を撮る中学生の集団の後ろ姿を寂しそうに見つめる剛志。


11病院

植物状態の千愛(14)を見つめる剛志。剛志の服装は登山したときと同じ。

12ショッピングモールのフードコート

ショッピングモールの外観を俯瞰で映す。


フードコートのテーブルに一人で座って、背中を丸めてそばを食べている剛志。一人で座ってるのは剛志だけ。周りは全員、友達とか家族とか恋人と一緒に座ってる。


剛志の隣のテーブルに学生のカップルが座ってきた。


彼らのバッグには「○○高校」と書かれている。


楽しそうに会話をする高校生カップルを見て、悲しそうな剛志。

13病院

植物状態の千愛(16)を見つめる剛志。剛志はフードコートのときと同じ服。

14大学前

大学の入学式の看板を映す。


大学構内では楽しそうな大学生たちがたくさんいる。


その様子を大学の外で歯を食いしばりながら泣いている剛志。剛志はスーツを着ている。


大学生たちは剛志を不審がっていたり、面白がったりしている。


剛志は涙を腕の袖で拭って、振り返り、大学を去る。

15病院

植物状態の千愛(19)を唇を震わせながら涙を流しながら、椅子に座って見つめるスーツ姿の剛志。


椅子から崩れ落ちて、床に膝をつき、千愛の足元の毛布に両腕を置き、思いを吐露する剛志。


剛志「本当にすまない…千愛…。小学校では運動会で綱引きやりたかったよなぁ…。中学校では部活をやってみたかったよなぁ…。高校ではイケメンな男と恋愛してみたかったよなぁ…。大学ではサークルに入って飲み会とか旅行したかったよなぁ…。ごめんなぁ、千愛…全部させてやれなくて…全部俺のせいだ…。俺のせいなんだ…」


毛布に顔をうずめて泣く剛志。


千愛「…パパ?」


剛志「…え⁉」


千愛の声に驚き顔を上げる剛志。


千愛の足元から千愛の顔に視線を向ける剛志。


状態を起こして、目を開けている千愛がいた。


剛志「千愛…」


千愛「パパ、なんで泣いてるの?」


千愛の上体に抱き着く剛志。


千愛「パパ、苦しいよ」


冷静になり、ハグをやめる剛志。


剛志「あ、ごめん千愛」


千愛「パパ、シワと髭が増えてるよ。あと、ここどこ?」


千愛の視点になる。周りを見渡す千愛。下を見ると、成長してる自分の体があった。


千愛「え⁉私の体、大人になってる⁉」


医師が千愛の病室に駆け付ける。


医師「千愛さん!」


千愛「あ!お医者さんだ!」


千愛が医師に指をさし、言った。

16病院の庭

病院の庭の外観を映す。そこには車椅子に乗っている千愛と車いすを押している剛志がいる。


千愛と剛志を映す。


千愛「へー、私って10年以上寝てたんだー。だから、私の体が大人になってて、パパは老けてたんだ」


剛志「本当にすまない…。千愛…」


千愛「なんで謝るの?」


剛志「千愛に青春時代を過ごさせてやれなかったから…」


千愛「パパのせいじゃないよ!私が山から落っこちたのは私自身のせいだし、あと…。パパこっち来て」


千愛は剛志に車椅子のハンドルから手を離して、千愛の正面に来るように促した。


剛志が千愛の目の前に行き、千愛に目線を合わせるために、剛志は両膝をついた。


剛志「来たよ。どうしたの」


千愛「ぎゅー」


千愛が剛志に抱き着いた。


剛志「ち、千愛⁉」


戸惑うけど、振りほどかず、されるがままの剛志。


千愛「パパ、だあいすき」


剛志「千愛、嬉しいけど、この年の親子同士は普通は抱き合わないし、大好きなんて恥ずかしげもなく言わないよ」


剛志は照れながら答える。

千愛「パパだって、さっき抱き着いてきたじゃん!」


剛志「た、確かに…」


千愛「あと、私、6歳のとき言ったじゃん!」


剛志「なんて言ったの?」


千愛「大人になってもパパに甘えるって!」


剛志が驚いた顔をする。


剛志は驚いた顔から、安堵に変わり、目をつむり、千愛を抱きしめ返す。

17写真展覧会

閑静なショッピングモール。


一室のドア。


立て看板には「山内剛志の写真展覧会」。


中は写真パネルが飾ってある。


剛志と剛志のファンが向かい合っている。


剛志のファン「山内さん、あんたの作品、生気を感じるようになったよ」


剛志「ありがとうございます」


剛志のファン「背景は晴れになったけど、山での写真が一枚もないのは気になったけどな」


剛志「山…ですか…」


神妙な面持ちになる剛志。


剛志の表情を見て、驚く剛志のファン。


剛志のファン「ま、まあ、俺の作品じゃないからよ、あんたの作品が見れるだけで俺は嬉しいんだわ。自由に楽しくやってくれよ」


剛志から離れ、写真パネルをじっくり見だす剛志のファン。


剛志のファンをみつめる剛志。


剛志「山での…写真…」

18公園

公園の外観を映す。車椅子の千愛と押してる剛志がいる。


千愛と剛志を映す。


剛志「あと、もう少しで車椅子必要なくなるってな」


千愛「うん!早く自分の足で歩きたい!」


剛志が微笑む。


千愛「パパ、カメラ貸して」


剛志が千愛にカメラを渡す


剛志「毎日、撮ってるな」


千愛「だって、楽しいんだもん」


千愛が公園にいる鳥を撮る。


その写真を剛志に見せる。


千愛「パパ!どう⁉」


剛志「よく撮れてる。さすがパパの娘だ。ただ、ここをこうするともっとよくなるぞ」


剛志が千愛にアドバイスをする。


その通りに千愛が撮る。


千愛「本当だ!さすが私のパパ!私が歩けるようになったら、またあの山で一緒に写真撮ろうね!」


剛志「え…」


千愛「あの山は写真が綺麗に撮れる場所がいっぱいあるから、今度はパパだけじゃなくて、私もいっぱい写真撮りたいなぁ!」


剛志「山はもう…、よさないか…?」


剛志が真剣な表情で言う。


千愛「え?どうして?」


千愛が悲しい表情で剛志を見る。


剛志「いや、なんでもない!歩けるようになったら、あの山に写真撮り行こうな!」


千愛「うん!」

19幼稚園前

幼稚園の外観を映す。


幼稚園の外で園児たちを眺める剛志。


小声でつぶやく剛志。


剛志「大丈夫だ。千愛はもう幼稚園生じゃない。山から転げ落ちることはない。千愛は大きくなったんだから」


焦りながら剛志はカメラを取り出した。


千愛(6歳)との山でのツーショット写真を見返す。


その写真を見た瞬間に山の斜面の下で意識を失っている千愛がフラッシュバックした。


剛志は過呼吸になり、その場に倒れ込んだ。


剛志の異変に気付いた保育士が駆け付けた。

20病院のリハビリ室

リハビリ室に看護師と千愛がいる。


千愛がぎこちないながらも支え無しで歩いている。


看護師「千愛さん、素晴らしいです!これなら、もう車椅子はなくても大丈夫ですね!」


千愛「本当ですかぁ⁉やったー!」


千愛が喜んでるときに、医師がリハビリ室に駆け付けた。


医師「千愛さん!」


千愛「あ!お医者さんだぁ!どうしたんですかぁ?」


医師「急いで私についてきてください!」


千愛「え?わかりましたぁ」

21病室

病室には薄目を開けて、疲れ果ててる顔をしている剛志が患者服を着て点滴が繋がれながら、ベットで寝ている。その姿を千愛が立ちながら見ている。


千愛「パパ…。なんで…」


千愛の声に気付いた剛志が目を千愛の方向へ向ける。かすれた声で千愛に呼びかける。


剛志「おぉ…千愛…」


医師「千愛さん、お父様は転換性障害を発症しました」


千愛「転換性障害?どういう病気なんですか?」


医師が一呼吸置く。


医師が剛志の顔を見る。


医師は剛志から視線を千愛に向け答える。


医師「転換性障害はストレスが原因で体が自由に動かせなくなる病気です」


千愛「ストレス⁉」


千愛が驚きの声を医師に向ける。


千愛が剛志の肩を持って問いかける。


千愛「パパ!私のことでストレスを感じてたの⁉なんでよぉ!私なら、何も心配いらないのにぃ!」


医師「千愛さん、お父様を問い詰めるのは病気の悪化につながりますので、おやめください」


千愛「もう、パパのことなんか知らない!」


千愛は涙を浮かべて、病室を後にした。


剛志「先生…」


医師「なんでしょうか?」


剛志「写真って美しくもあり、残酷でもありますよね」


医師「と、言いますと?」


剛志が医師に親子ツーショットの写真を見せる。


剛志「この写真は娘が昏睡状態になる前に撮った写真なんです」


医師「素敵な写真ですね」


剛志「ええ。でも、呪いにもなりうる」


医師「呪い…」


剛志「この写真を見て、娘がいなくなってしまったときのことを鮮明に思い出してしまったんです…。こんな思いをするなら、この写真を撮らないほうがよかったかもしれません」


剛志は窓の外を見ながら言った。

22写真展覧会

閑静なショッピングモール。


一室のドア。


外の立て看板には「山内千愛の写真展覧会」という文字。


中は写真パネルが飾ってある。


それを笑顔で見つめる千愛。


その千愛を見つめる剛志のファン。


剛志のファン「山内さんのお嬢ちゃんか?」


千愛「あ!お父さんのファンの方!お久しぶりです!」


剛志のファン「久しぶり。6歳からお父さんの写真展覧会に来なくなっちゃったから、写真に興味なくなったのかと思ってた」


千愛「山から落っこちて、6歳以降は昏睡状態で10年以上寝てました!」


剛志のファン「山⁉昏睡⁉」


千愛「山と昏睡です‼」


剛志のファンは千愛に背を向けて呟いた。


剛志のファン「だから、あの時の山内さんは元気がなかったし、山を撮りたがらなかったのか…。俺に娘さんのことを言ってくれれば、なんかの助けをしたのに…。まあ、でも山内さんなりの気遣いか、責められるわけない」


千愛に背を向けていた剛志のファンは、再び千愛に顔を向けた。


剛志のファン「それは災難だったけど、お嬢ちゃんもお父さんと同じカメラマンになったんだね」


剛志のファンが当たりを見渡す。


剛志のファン「そういえば、お父さんはどこへ行ったの?ここ何年か、見てないけど。今日もお父さんの展覧会がやってないか、見に来たらお嬢ちゃんがいたわけだが」


千愛「お父さんは入院してます」


剛志のファン「え⁉」

23剛志の病室

剛志のファンが病院に入っていく。


剛志の病室にたどり着く。


剛志「あ、あなたは…」


剛志が驚く。


剛志のファン「久しぶりだな山内さん、聞いたぜ。あんたの娘さん、しばらく昏睡状態だったんだってな」


剛志「だ、誰から聞いたんですか?」


剛志のファン「あんたの娘さんから直接」


剛志「え?どこで会ったんですか?」


剛志のファン「娘さんがあんたと同じ、写真の個展をやってるんだよ」


剛志「え⁉千愛が⁉」


剛志のファン「あんたには治療に専念してほしいから黙ってたんだとよ」


剛志「千愛が俺を気遣ってくれたのか…。成長したな…」


剛志が感嘆する。


剛志「でもそれじゃあ、あなた、娘の気遣いを無下にしてませんか?ペラペラ僕に秘密を打ち明けるなんて」


剛志のファン「今日来たのは俺だけじゃねーよ」


剛志「え?」


扉から千愛が出てくる。


剛志「千愛…!」


千愛「久しぶり…。お父さん…」


剛志「ひ、久しぶり」


千愛「お父さん、ちょっと語らせて」


剛志が小さくうなずく。


千愛「お父さんのストレスの原因は私がお父さんに甘えすぎたせいだと思ってた。だから、あの日から私は甘えないようにお父さんを避けてた。だけど、お父さんのことを忘れられなくて寂しくて、お父さんを唯一感じられる、写真をずっと撮ってた」


剛志のファンが微笑む。


千愛「大自然と対話したり、人と交流したりして気付いたの」


千愛が剛志をまっすぐ見つめて笑顔で言う。


千愛「お父さんも私と同じで、私がいないと寂しいってことに」


剛志が目をつむって、優しい笑顔になる。


千愛「だけど、久しぶりに会うのが気恥ずかしくて、お父さんのファンの人に来てもらっちゃった」


剛志のファン「そゆこと。…あんたの娘さん、あんたよりも写真がうまかったぞ」


剛志「そうですか…」


剛志は目を腕で隠しながら、笑顔でつぶやく。


千愛「私が心配だからお父さんはストレスを感じてたんでしょ?私、お父さんよりも写真上手くなったし、お父さんよりも頭回るから、山から落っこちる心配なんてする必要ないよ。だって、お父さんと離れてる間に山で写真撮りまくっちゃったもん!」


剛志「それは…。安心だ…」


千愛「今度は私がお父さんを心配する番だね!」


剛志が腕を目から下ろし、涙を浮かべながら笑う。


千愛も涙を浮かべながら笑う。

24公園

公園の外観を映す。車椅子の剛志と押してる千愛がいる。


剛志と千愛が映る。


剛志「千愛、カメラを貸してくれないか」


千愛が剛志にカメラを渡す。


千愛「いいよ。久しぶりに写真撮るね、お父さん」


剛志が羽化しそうなセミを撮る。


剛志「どうだ?上手く撮れてるか?」


千愛「お父さん、やっぱりうまい!技術は錆びないってよく言うもんね!ただ、聞き流してくれて構わないんだけど、ここをこういう風にしたらもっと綺麗になるかも!」


剛志が千愛に言われたとおりに写真を撮る。


剛志「おお!ほんとだ!さすがは俺の娘だ!もう千愛を心配するのは失礼に値するな!これからは自分自身の心配をするようにするよ!」


剛志が笑う。


千愛「その通り!」


千愛が笑う。

25千愛と剛志の家

家の外観を映す。


家の中を映す。玄関には千愛がいる。千愛の服装は登山服と首にかけたカメラ。


千愛「お父さーん!準備まだー?」


笑顔で問いかける剛志に問いかける千愛。


剛志「おーすまんすまん!今終わったとこ!」


奥から玄関にやってきた剛志。


千愛「別にいいよ!山は逃げないんだし!出発進行―!」


手を掲げる千愛。


剛志「お、おー!」


恥ずかし気に掲げる剛志。


楽しそうな千愛の顔が映る。


嬉しそうな剛志の顔が映る。


二人が並んで歩いている後ろ姿を映す。

〈終〉

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