超能力に目覚めたけど微塵も役に立ちません
6時半起床。カーテンを開ければ外は快晴、新しい朝がきた。さあ今日も張り切って頑張るか。会社は臨時休業ですけど。
欠伸をしながら玄関へ。困ったことに朝刊がまだ届いてない。ちょいと世間が騒がしいので配達もままならないのだろうか。
新聞は諦めて台所に向かった。食パンの焼きあがりを待つ間にテレビをつけると、ちょうど今日の運勢のコーナーをやっている。いつものように明るく謝るアナウンサーの声が聞こえてきた。どうやら運勢ランキングの最下位を発表するようだ。
「ごめんなさい!今日、最も運勢の悪いのは……」
5月生まれ双子座の俺。果たして運勢ランキングはどうか。基本的に占いなど気にしないタイプではあるものの、最下位と言われるとやはりいい気はしないものだ。特に今日は。
「牡羊座と牡牛座」
お、双子座じゃなかった。良かっ……いや信じてないよ?占いなんてね。全然ホッとしてないからね。
ただ朝から変なの聞きたくないだけ。
「と双子座と蟹座と獅子座と乙女座と天秤座と蠍座と射手座と山羊座と水瓶座と魚座の貴方。要するに全員でーす!」
ってなんだその続き。双子座どころか全部て。人類全体が最下位か。何に対して最下位なんだ?
可愛い声で、なかなかにラジカルなランキングを発表しちゃうもんだな。まあいい、ここは運勢を変えるアイテムに期待しようか。どれどれ。
「そんな超絶不幸な皆様の運勢を変えるラッキーアイテムはすっごく大きな地下シェルターです!地下2000メートルぐらいまであるタイプじゃなきゃダメ。もちろん庶民には無理ですよね。日本にそもそも無いし。参った参った」
何を言い始めてるんだコイツは。本音をぶちまけ過ぎだろう。
「それでは皆さん。今日も一日頑張ってください!私はこんな日も仕事だよ!最悪だよ馬鹿野郎ー」
可愛いアナウンサーの声に混じって何やら大人の男の怒鳴り声が聞こえてきた。「馬鹿野郎!」と女子アナに喚いてる。朝からうるせぇな。現場が混乱してるようだが、みっともないったりゃありゃしない。
全く最後まで見て損した。やっぱそんな逃げ方か。だいたい占いやるのがふざけてる。テレビ局もいよいよヤケクソになってきたようだ。クレーム上等な態度が笑えたからいいけど。
抗議が殺到してるであろう占いのコーナーは終わり、番組は通常のニュースに切り替わる。急に雰囲気が変わって男のアナウンサーが脂汗を垂らしながら必死に原稿を読み上げはじめた。
「さらに正確な予測が判明しました。気象庁の発表によりますと、直径78キロの巨大小惑星598524は日本時間の今日の午前7時26分に、秒速153キロメートルで南極半島に衝突するとのことです。人類史上未曾有の災害が発生すると思われます。あらゆる警報が出されており、警戒レベルは……」
南極に落ちるのか。にしてもデカすぎる。直径78キロなんて白亜紀を終わらせたやつより巨大だろコレ。
運勢ランキングのトーンで分かってたけど、やっぱこれ人類滅亡コースですね。
トースターが「チーン!」とタイミングよく焼きあがりを伝える。もう、おりんの音にしか聞こえない。
昨日の夜はお祈りして寝たというのに。朝になっても奇跡は起きなかったか〜チクショウ!
NASAがありったけのロケットを衝突させたのにビクともコースを変えなかったとアナウンサーが説明している。人類の叡智、微塵も及ばず。
俺はトーストを齧りながら、リモコンのボタンを押しテレビの電源を消した。
これは逃げても無駄なんだよな。とは言え南極半島からここまですぐには影響はないはずだ。きっと。そうに違いない。だって恐竜(鳥を除く)だって即日絶滅したわけじゃないだろう。しかし……人生最後の1日となる可能性はなきにしもあらず。何しろ小惑星がデカいんだなコレ。
最後だというならプリティな先輩の田浦さんにLINEで告白すべきだ。あの人意外にドジっ子で可愛いんだなコレが。今なら吊り橋効果が発生するに違いない。よし、やろう。
なんてロマンティックな展開などあるわけない。そもそもLINEなんて交換してない。そもそも俺は誰とも交換していない。仮にしてたところで既読無視されたまま人生が終わるのが関の山。
今日は運勢も最下位だったしね。よし、やめた。
とりあえず今日は午前中のうちに墓参りにいくことにする。そういやレンタルした映画の返却期限は明日だっけ。まあ明日返却すればいいか。
延滞料金を請求されるほど、地球の明日が無事ならいいしな。
それにしても今日は本当にいい天気。窓から見える青空が本当に綺麗だし。梅雨の中休みとはよく言ったもんだ。このままずっと休んでてくれよ。
……って、なんか西の空が赤いぞ。まるで夕方のような色合い。6月の朝だよねコレ。
あっ。なんか遠くの建物が粉々に砕けてる。どんどん近づいてる。ヤバい。
これはきっとアレだな。小惑星の野郎、分裂して片割れの方が先に地球に落ちやがったパターンだな。ちっくしょ!NASAのロケット意外に破壊力あんじゃん。
急いでネットニュースをチェック。あーやっぱり。近くに落ちたってオイ。
あ、どんどん来る。衝撃波だけでとんでもないことになるな。いや分析してる場合じゃない。
逃げ場なんてない。
うわっ。来世はあるんだろうか。いや今はそんなこたぁどうでもいい。痛いのヤダ。死にたくはない。伏せたら助かるかな。いやアパートごと粉砕でしょこんなもん。
くそっ飛べ俺!くっそ飛べね!
こんなことなら昨日のうちに……。
あ、飛べた。なんか浮いてるぞ体。俺にこんな超能力があったのか。神さまありがとう!って感動してる場合じゃない!
窓を開けてすぐに部屋から脱出!スーパーマンの如く、弾丸の如く、空を突き抜ける。
逃げろ逃げろ。稲妻のような速度で逃げるんだ。雲を突き抜けたらメチャ寒いけど構うものか。超えろ音速!目指せ光速!
振り返れば核爆発の如き凄惨な光景!
逃げた逃げた。超能力で俺は逃げ惑った。小惑星のカケラは世界中に散ってしまい、至る所で炸裂してるのだ。どこにも安全な場所がない。
北太平洋を超え、北米を超え、ヨーロッパに入って、アフリカへ。とんでもねぇ〜速度で移動し続ける。
どこもここも大爆発。
気づけばブリザードの中、氷の世界に俺は立っていた。
「寒い!死ぬ!どこだここ、ハックション」
あー、やばい。見上げればぶ厚い雲を突き破って凄いのが来てる。全天を覆い隠す小惑星の巨大さたるや、壮観過ぎる。
なんてこった。よりにもよって真冬の南極半島に来ちまったようだ。時計を見れば7時25分。衝突タイム寸前だ。
くっそー。超能力に目覚めた俺でも一巻の終わり!なんと意味のない超能力だったのか。