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選ばれなかった俺が彼女を諦めるまで  作者: わだち
第二章 蒼井千冬
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日常

 蒼井と話をした日から数日が経過した。

 あの日からどうも蒼井は忙しそうにしている。以前、廊下ですれ違った時に声をかけようとしたがあまりに険しい表情だったため思わず躊躇してしまった。


 まあ、タイミングもあるのだろう。

 来週には体育祭があって、蒼井は生徒会長としてその準備におわれているに違いない。


 まあ、ノートについてはいいか。

 しかし、蒼井の協力が得られなかった以上もう俺に出来ることは殆ど無い。

 強いて言えば黄島に声をかけることくらいだが、黄島は黄島で直ぐに放課後家に帰っちまうしなぁ。


 それに、今は他にも考えなきゃいけないことがある――。


「春陽君、ボーッとしてどうしたの?」


 考えごとをしていると横から声がかかる。

 その声の主に視線を向ける。そこには少し疲れた表情の花恋がいた。


「ああ、いやなんでもない」

「そう? 悩み事あるなら聞くよ?」

「いや、本当に大丈夫だ。それより花恋の方こそ大丈夫か?」

「大丈夫ってなにが?」

「いや、最近よく告白されてるんだろ?」


 俺の言葉に花恋が「あー」と声を出しながら苦笑いを浮かべる。


 そう、ここ最近、毎日の様に花恋は色んな男子から告白されている。

 告白っていうのは意外と精神的に疲れる。

 まあ、相手の本音を受け止めてその本音を拒否するなんて誰だってやりたくはないだろう。


「まあ、体育祭もあって皆気持ちが昂ってるんじゃないかな。私の友達もこの体育祭で彼氏作りたいって話してたしね」

「なるほどね」

「それより、今は二人三脚の練習しようよ!」


 明るい声でそう言う花恋。


 眩しすぎる。日光浴でもしてる気分だ。

 気のせいか、心と体もあったまって来た。


「よし、やろう!!」

「き、急に元気になったね。まあ、やろう!」


 花恋と肩を組んで、「いち、に」と声を出しながら歩く。

 今この瞬間、花恋と俺の動きは完全にシンクロしている。つまり、二人で一つと言っても過言ではないわけだ。

 二人で一つということは俺が千歳であると共に、花恋も千歳になっているというわけで、つまりこれは実質結婚ということ!?


「最後は同じ墓か」

「急にどうしたの!?」


 おっと、思わず花恋との結婚式から新婚旅行、出産に子供の成長、老後までを想像してしまった。


 花恋の声に意識を現実に引き戻す。

 気付けば結構の距離を二人で歩いていた。


「……ぐすっ」

「春陽君!? 何で泣いてるの?」

「いや、二人でこんなに歩いて来たんだなって……長かったなぁ。春華は元気にしてるかなぁ?」

「いや、一分くらいしか歩いてないよ!? あと、春華って誰!?」


 しまった。

 現実に戻ったつもりがまだ戻れてなかった。

 俺と花恋は結婚どころか付き合ってもいないし、春華なんて子供も生まれていない。

 これはただの二人三脚だ。


 幻を見せるとは……二人三脚、恐ろしい競技だ。


「悪い、ちょっと幻覚を見てた」

「だ、大丈夫? ちょっと休む?」

「大丈夫だ。ところで、そろそろ軽く走ってみるか?」

「うん、春陽君が平気ならいいけど……」

「平気だから安心しろ」

「そっか。じゃあ、走ってみようか!」


 せーの、の掛け声で一歩踏み出す。

 先ほど同様「いち、に」と声を出しながらグラウンドを駆ける。

 やはり幼馴染として一緒にいる時間が長いからか、俺と花恋の息はピッタリだった。


「うん! これなら大丈夫そうだね! 本番は一番取ろうね!」


 走り終え、タオルで汗を拭きながら花恋が弾けるような笑顔を俺に向ける。


「おう!」


 勢いよく返事を返す。


 なんともいい感じの雰囲気だ。

 このまま告白してフラれそうな勢いである。

 フラれるのかよ。


「あ」


 不意に花恋が思わず取った様子で声を漏らす。

 何事かと思い、花恋の視線の先を追いかけるとそこには啓二と啓二の腕を取る小圷ミドリの姿があった。


 ああ、なるほど。


 いや、これは気まずい。

 花恋からしたら心中穏やかじゃないだろうし、どう声をかけたものだろうか。

 悩む俺が口を開くより先に、花恋がポツリと呟く。


「ミドリちゃんって素直だよね」

「そうか?」


 素直というか自分の思いに忠実なだけな気がする。

 別に他者の意見を素直に受け入れるわけではないし。


「啓二もちゃんと自分の気持ちを口に出せるようになればいいのにね」


 その目は、恋する少女というよりはまだ未熟な子供を見守る親のように見えた。

 なぜ花恋がそんな目を向けるのか。

 花恋に聞いてみたくなったが、それは何故だか聞いてはいけないことのようにも思えた。


「さて、そろそろ練習時間も終わりだし、私はもう行くね」

「あ、ああ」


 俺が困惑している間に花恋はそう言い残して、俺の下を離れていく。花恋がその足で向かう場所は啓二たちの方だった。


 まあ、そうだよな。


 その後、体育祭の練習は終わり放課後になった。

 今日の放課後はどうするかなと思っていると、珍しく黄島が俺の方に近づいて来た。


「千歳、今日暇か?」

「お、おう。暇だぞ」


 黄島と話すのはなんだかんだでかなり久しぶりな気がする。

 それにしても黄島から話しかけてくるとは珍しい。なにか重大な用事でもあるのだろうか?


 黄島の次の一言を待つが、黄島はもじもじとして中々次の言葉を発さない。

 この反応は黄島にしては珍しい。

 一体俺は何を言われるんだ!?


 ドキドキしながら待っていると、遂に黄島が口を開く。


「お前、あたしの弟と仲いいらしいな」

「へ?」


 一瞬何を言われてるか分からなかったが、直ぐにノートのことを思い出す。

 確かあのノートには黄島の弟と邂逅したみたいなことが書いてあった。つまり、俺は黄島の弟と知り合いなはずだ。


「弟がお前に会いたがってんだよ。まあ、だから、出来たらだよ! 暇だったら会ってやってくれってだけだ」


 うーむ。

 どうしたものか。非常に厄介なことに俺は黄島の弟との出会いを忘れてしまっている。

 とはいえ、会いたがっている黄島の弟を避けるのも申し訳ない。

 それに、偶然とはいえ黄島と接近するチャンスだ。

 今の黄島と俺は色々と忘れてしまっているものの、もしかしたら一緒に過ごしていく内に記憶を思い出すという奇跡もあるかもしれない。


「いいぞ。じゃあ、早速行くか」

「え、いいのか?」

「おう。ほら、善は急げだ。今から行こうぜ」


 黄島に声をかけて立ち上がる。

 それにしても黄島の弟か。

 きっと黄島に似て少しひねくれているに違いない。

 あれだ。多分初対面の相手は皆不審者認定してくるくらいの子供と見た。


 こうして初めての黄島家訪問が決まった。

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