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選ばれなかった俺が彼女を諦めるまで  作者: わだち
第二章 蒼井千冬
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 昼休みになり、生徒会室へ向かうとやはり蒼井千冬はいた。

 

「おっす」

「千歳君、どうかしたの?」


 俺を見る蒼井の瞳が僅かに揺れたような気がしたが、それは一瞬で直ぐにいつもの落ち着いた表情を蒼井が浮かべる。


「先週に色々話しただろ? 折角だし、蒼井との交流を増やそうかと思ってな」


 確認も込めて蒼井に言葉を投げかける。

 蒼井と先週色々話をしたことは確かに覚えている。蒼井もそれを覚えているなら、蒼井関連のことを俺は忘れていないということになる。

 この確認だけはしておきたい。


「そういうことなのね」


 蒼井が納得したように頷く。

 つまり、先週の件は蒼井も認識しているということだ。

 ならば、蒼井に関する記憶を俺は忘れていないということになるのだろう。


 さて、そうなるとここからが大事だ。

 蒼井を頼りたいところではあるが、話をどう切り出すのが正しいのだろうか。


 迷っている俺より先に口を開いたのは蒼井の方だった。


「それだけ? ここに来た理由は本当にそれだけなの?」


 蒼井の視線が俺を射抜く。

 その問いかけはまるでこちらの真意を既に見抜いているかのようだった。


「力を貸して欲しい」


 蒼井に頭を下げる。

 蒼井の問いは丁度いい話の切り口だった。昼休みだし、話しが長引いても仕方ない。単刀直入にいこう。


「分かったわ」


 蒼井の返事は余りにあっさりとしていた。


「とりあえず、千歳君が抱える事情を詳しく知りたいわね」

「いやいや、ちょっと待てって!」

「どうしたの?」

「返事は嬉しいけど、そんなにあっさり決めてもいいのかよ? まだ何も話してないんだぜ?」

「黄島さんにお願いされたのよ。千歳君が協力を求めた時には力になって欲しいって。全てではないけれど、黄島さんからも話は聞いたわ」

「そうだったのか」


 どうやら蒼井は既に事情をそれなりに知っていたらしい。

 てか、黄島の奴もこうなることは予測していて予め先を見据えた一手を打ってたのか。

 ありがたい。


「でも、詳細を理解したわけじゃないわ。お互いの認識の齟齬を確認する上でもじっくり話をする時間が欲しいの。今日の放課後は空いてる?」

「ああ。でも、生徒会の活動はないのか?」

「あるわ。だから、私の活動が終わるまで待ってもらうことになると思う。それでも平気かしら?」

「問題ない! なんなら手伝おうか?」

「今日は私以外の生徒会役員もいるから遠慮するわ。ありがとう」


 微笑みながら蒼井はそう言った。

 何はともあれ、これで蒼井に協力してもらえることになった。思ったより話がスムーズに進んだことには驚いたがありがたいことには違いない。


 ただ一つ気になることがあるとすれば蒼井がやけに気合が入っていることだろう。

 事情を知っていたとしてもそこまで俺に親身になってくれるものだろうか。


 チラリと視線を蒼井に向ければ、蒼井は真剣な表情で手元の書類を見つめていた。


 そう、蒼井は生徒会長。

 忙しいはずだ。俺の手伝いをする余裕なんてないはずなのに。


「蒼井、無理はしなくていいからな」


 結局、頭に浮かんだ疑問を蒼井本人には問いかけなかった。代わりに口をついて出たのは蒼井の身を心配するかのような言葉だった。


「大丈夫よ」


 俺を安心させるように蒼井は微笑んだ。



***



 昼休みが終わり、午後の授業が始まる。

 突然ではあるが、実は俺が通う高校は体育祭が近い。そのため、授業に体育祭の練習が入って来る。

 何を隠そう今日の昼からの授業は正しくその体育祭の練習だった。


 ちなみに体育祭では紅と白に分かれて競い合うのだが、紅と白への振り分けは体力テストの結果をもとに赤と白が丁度同じくらいの戦力になるように振り分けられるらしい。

 つまり、同じクラスだけど体育祭では敵チームということが起きる。


 実際に俺と啓二、黄島は同じクラスだが俺は紅、啓二と黄島は白である。

 花恋? 花恋は紅。ちなみに蒼井も紅である。


 ひゃっほおおおおい!! 絶対勝つぞおおおお!!


「うおっ。急に空に拳突き上げんなよ。ビビるだろ」

「お、悪い」


 横にいた太田に注意され、手を下げる。

 校庭で練習が始まって早くも数分。現在俺は太田と共にリレーの走る順番の確認とバトンパスの練習中だった。

 メンバーには三年生と一年生、二年生の女子の中には蒼井の姿もある。

 最後の目玉種目であるリレーだから誰も彼も足が早そうだ。


「そういや、千歳って二人三脚出るんだよな?」


 バトンパスの練習の順番を待っていると太田が問いかけて来た。


「ああ。誰と走るかはまだ決まってないけどな。それで言ったら太田も二人三脚のメンバーじゃなかったか?」

「まあな。俺はあそこの風間とペア」


 太田が指さした先にはリレーメンバーの一人である黒髪ショートの少女がいた。


「知り合いなのか?」

「陸上部で同じだ。風間に誘われたから二人三脚に出ることになったんだよな。どうせ出るなら桃峰さんとか蒼井さんとペアになりたかったよなぁ」


 そう言って太田はため息をついた。


 いや、待て。誘われた?

 女の子の方から二人三脚に?

 それって!?


「風間さん、お前のこと好きなんじゃねーの?」

「あの風間が? 無いない! だって、早く走ること二しか興味が無い不愛想女だぜ」


 そう言って笑う太田の肩に手が置かれる。

 そして、太田の背後から張本人の風間さんが顔を出す。


「……誰が不愛想だって?」

「ひぇっ、風間! な、なんでここに!?」

「……千歳にお客さん」

「俺に?」


 風間さんはそう言うと後ろを指差す。

 その先には小さくこっちに手を振る花恋の姿があった。


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