黄島秋子と千歳春陽
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「千歳、大丈夫か?」
黒沼先輩同様、姿が変わった黄島が心配そうに俺に問いかける。
腰まで伸びる美しい金髪はポニーテールになっており、その瞳は琥珀色に輝いている。
身に纏うものも神々しさを感じさせるものに変わっており、背中には純白の羽が生えていた。
「あ、ああ。なんか、凄い格好だな」
「そ、そんなジロジロ見んじゃねえ。……恥ずかしいだろうが」
「わ、悪い」
言葉通り黄島は頬を赤く染め、視線を俺から逸らす。
その仕草に、こんな状況だというのに目を奪われる。
あれぇ? 黄島ってこんな可愛かったっけ……?
いや、落ち着け。これはあれだ。吊り橋効果ってやつだ。
あと、さっき黄島に「千歳は大事なやつで、あたしはもう千歳なしじゃ生きていられないんだ!」なんて言われたせいだ(言ってない)。
好きだと言われると意識しちゃう、よくあることだよね。
「千歳! 危ない!!」
「へ?」
黄島に名前を呼ばれたかと思えば、腕を引かれ黄島に抱き寄せられる。
それと同時に柔らかな感触が頭に伝わる。
ちょっ!? こ、これってまさか……!?
「ちっ、潔く諦めてはくれないか」
「あなたに言われたくないわね。最後までみっともなく千歳春陽に縋りついたあなたに」
「伝えなきゃならない思いがあったから、最後までそれを伝えようとしただけだ」
「しつこい女は嫌われるのよ?」
「今のあんたにその言葉そっくりそのまま返すぜ」
困惑する俺をよそに黄島と黒沼先輩は火花を散らしている。
どうしよう……胸が当たってるって、凄く言いづらい。
てか、黄島も気づけよ! なんで気付かないんだよ!
心の中で抗議していると、その抗議に反応するかのように黄島が俺を解放した。
そして、黒沼先輩を睨みつけたまま「あたしの後ろにいろ」と言った。
流石に、この超次元の戦いに一般人の俺はついていけない。
「あまり時間をかけて援軍に来られても困るし、次で終わりにしましょうか」
黒沼先輩が手を前にかざす。
それに合わせて、黒沼先輩の背後の空間からいくつもの先端が尖った黒い弾丸のようなものが姿を現す。
「さあ、黄島秋子。あなたに大切なものが守れるかしら?」
その言葉と供に一斉に弾丸が黄島と俺目掛けて飛んできた。
◇◇◇◇◇
黄島秋子にとって千歳春陽はクラスメイトの一人で、負い目のある存在だった。
許されないことをしたと秋子自身感じている。許して欲しいなんて口が裂けても言えない。
それでも、春陽はそんな秋子の手を取ってくれた。
チームだからという理由になっていそうでなっていない理由で。
今なら、どうだろうか。
今なら黄島秋子にとって千歳春陽とはどんな存在だろうか。
千歳春陽からの信用を失った時、締め付けられるような胸の痛みを感じた。
千歳春陽が長人や神奈と楽し気に話している時、胸が温かくなった。
千歳春陽が秋子のことを褒めている時、どこか照れ臭くなった。
千歳春陽が父親に対して怒りの表情を見せた時、千歳春陽のことを知りたいと思った。
千歳春陽の家族のことを知った時、どうにか力になりたいと思った。
黄島秋子は千歳春陽を大事な存在だと言った。
なら、それはどの枠組みに入るのか。
友達としてか? 家族のような存在としてか?
『黄島の方が俺は好きだ』
あっけらかんと春陽はそう言った。
その時、秋子の心臓が大きく鼓動を打ったのは何故か。その一言に顔が熱くなってしまったのは、恥ずかしいからなのか。
分からない。秋子にはまだこの思いがどういうものか分からない。
***
美弥の放つ弾丸の雨を槍一本で防ぎ続けていたが秋子だったが、徐々に防ぎきれなくなっていた。
既にいくつかの弾丸が秋子の頬をかすめ、脇腹をえぐっている。
身に纏っている衣装にも至る所に傷がつき、血が滲み始めていた。
「ぐっ……!」
「負けるな! 頑張れ――秋子!」
僅かによろめく秋子の背中を春陽は支えながら、秋子の名前を叫ぶ。
突然のことに、心臓が跳ねる秋子だが、その一言で不思議と全身に力が漲っていく。
背中に春陽の手の温もりを感じながら、秋子は歯を食いしばる。
「ああ、任せろ――春陽!」
絶え間なく降りかかる弾丸たちをひたすらに弾き続ける。
黄島秋子にとって千歳春陽がどういう存在か。
その答えを秋子はまだ持ち得ていない。
ただ、名前を呼ばれるだけで、名前を口にするだけで胸の奥が熱くなる。力が湧き上がって来る。
それだけ、秋子にとって千歳春陽は特別な存在なのだ。
その事実だけで、秋子が今ここで戦う理由に十分なる。
「はあああ!」
秋子の思いに呼応するかのように、手にする槍が雷光を纏う。
雷光が迫りくる銃弾を打ち落とし、クロの姿が露わになる。その隙を秋子は逃さない。
「穿て! ライトニングボルト!!」
一閃。
秋子の手から放たれた槍がクロの胸を貫く。
胸を貫かれたクロは大きく目を見開いてから、観念したようにため息をつく。
「あーあ、ここまでねぇ……。黄島秋子、あなたはいずれ千歳春陽を見捨てなかったことを後悔するわよ」
秋子に向けてクロはそう言うと、「それから」と呟き春陽に目を向ける。
「あなたはいつか必ず自分の欲望のために誰かを不幸にするわ。だって、あなたはシロの子供だもの」
そう言うと黒沼先輩は、口角を吊り上げた。
春陽には、その表情が春陽の父親の表情と重なって見えた。
最後まで余裕の笑みを崩すことはなく、不穏な言葉を残して黒沼美弥――鬼魔のクロは姿を消した。
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