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処の境界  作者: 成橋 阿樹
第三章 天と地
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第25話 秘仏

 神の姿は見る事は出来ないが、仏の姿は見る事が出来る。

 ……だが。


 その姿を見せる事なく、秘める事がある。



「呪いを返すには、同じ神仏の力を使った方がいいってな……なあ……そうだろう? 親父」

 やはり……この男が回向の父親。

 燃え上がるように真っ赤に染まった灯籠の明かりが辺りを照らし、男の顔が見えた。

 何の感情も見せない、冷酷にも思える表情。

 照らされるその姿は、回向とよく似た赤茶色の髪を一つに束ねていた。

「もう……隠れる必要もなくなったか、回向」

「よく……その名を口に出来るな。その意味さえ……踏み付けているというのに」

 回向は、錫杖を持つ手に力を込め、険しい顔を見せた。

「だからこそお前は、私と同じものを持つ事はないと思ったのだがな」

「羽矢に掛けた呪いを解け。でなければ、呪いを返す」

「明かそうとするからだろう。同じものを持ったと言うのなら、知らないとは言わせないぞ。時を経て開扉する事も許さず、これは……」

 回向の父親は、目を閉じたままの羽矢さんをちらりと見ると、強い口調で言葉を続けた。


「絶対に開扉しないものだ」


 その言葉を聞くと羽矢さんは、強気に笑い返して口を開く。

「開扉出来なくなっただけだろ……確かにこのままでは開扉など永遠に出来はしないだろうな。そもそも開扉しても現した姿は、その身さえ、布に包まれたままだった。拝む事は叶わなかったよ。流石にその光明は大きくて、覆い隠せないようだったがな」

 羽矢さんは、蓮の肩からゆっくりと手を離す。

「羽矢……無理するな」

「大丈夫だ、蓮」

 羽矢さんは、蓮から離れ、自力で立つと言った。


「そういった(さま)を踏まえると、どうやら……開眼(かいげん)は済んでいたようだな。まあ……そうでなければ、光明が溢れる訳もないが」

 開眼……魂入れだ。仏の像を移動する際に、魂を抜き、そして再度、魂を入れる。

 羽矢さんは、ははっと静かに笑うと言葉を続けた。

「どうにも辿り着く答えは同じであるはずなのに、俺と違ってそちら側には秘密が多い……まあ秘仏とするのも頷ける話だが。やはりそれは……今の置かれた状況に倣っての事なのか?」

「……どういう意味かな」

「どういう……? 見ての通りを言っているんだよ。神の姿は見る事は出来ない、本殿の扉は閉じられたままだ。それでも祭祀の際に開扉する事はあっても、神の姿は見えはしない。だが、そうだな……」


 羽矢さんは、地を踏み締めるようにゆっくりと歩を進めた。

 蓮がいつでも羽矢さんを支えられるようにと、側につく。


「依代となる神体を『お前立ち』とするならば、見えない姿の中にある、見えない姿の『身代わり』に出来るという事なのかな……?」


 羽矢さんの言葉に、回向の父親は眉を顰めた。

 ……羽矢さん。

 視覚に頼れない状態であるというのに、まるで見えているみたいだ。

 相手の僅かな心の動きまでも、読み取れているようだった。

 羽矢さんは、目を閉じたまま、ニヤリと口元を歪めると、口を開く。

「そちらが秘めると言うのなら、こちらは全てを開示する」


 そして、穏やかにも笑みを見せて、羽矢さんはこう言った。


「俺……『無量』なんで」

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