第17話 合祀
……死期が近いか……亡くなっている……。
僕は、驚くばかりだった。
核心をつくような羽矢さんの言葉に、当主様は羽矢さんをじっと捉えていた。
そんな二人の様子に、閻王が満足げに表情を緩めた。
「……流。藤兼を我の近くに置く理由が分かるだろう。まるで我の持つ鏡そのものだ。秘事など出来ぬぞ」
閻王の目線に、当主様は穏やかな笑みを返して答える。
「無論……それは承知の上」
羽矢さんの言う通り、陰陽師である当主様には主となる神であり、当主様は近しい存在だ。
寿命や在世での地位を司る神であり……仏の姿なら……薬師如来。
そう考えれば、身体的状態は良くはないのだと理解出来る。
そして今の状況を加えれば、意図的にその状態になっていると気づかされる。
薬師如来は、その名の通り、医薬の医師、つまり薬師という事だ。
身体的状態が良くないとしても、亡くなっているとしても……どちらにしてもその因は。
……呪いだ。
そんな言葉が直ぐに浮かぶのも、明白な事だ。
高宮を追って辿り着いたのは、あの……呪いの神社だと言われているところだったのだから。
高宮が片膝をつき、頭を下げながら当主様に答えた。
「総代もご存じの通り、廃仏毀釈が起こったと同時に、神社と改称し、当然の如く神社の数は増え、神社の数を減らす神社整理が行われて複数の祭神も一つに合祀されました。元々あった神の信仰は、氏神信仰であり、それは祖霊崇拝です。その土地の鎮守も遠方の土地の鎮守と合祀され、参拝が難しくなったのは言うまでもありませんが、合祀された結果、廃された神は祟る……そうは言っても、その姿も現せるものもなく、宿る依代さえないのです」
高宮はそう言った後、顔を上げ、当主様を見つめた。
当主様は、高宮の言葉に小さく二度頷きを見せた。
……やっと……理解が出来た。
回向が言った言葉。漂うように浮かんでいた魂の解放があまりにも早かった事。
違和感しかなかった。
正反対にも思えた行動が不可解でしかなかったが、その本意が分かった気がした。
それは勿論、回向に限らず、高宮もだ。
やはりこの二人は……僕たちにとって敵にはならない。
『ここは神域。社殿の必要はない。必要なのは、依代と、そこに宿らせる魂だけ』
そして……。
僕の目線が羽矢さんへと動く。
『例え、戻る体がなかったとしても、『依代』に与えればいい。だがそれは……復活の為の供物として、だ』
……復活。
「……復活……」
思った事が、そのまま口に出た。
僕の声に当主様の目線が動く。
当主様は、全ての問いに答えるように、口を開いた。
「姿はあれども意は示さず、意はあれども姿は見えず……意を示すは我にあり、我は存在を示す器に過ぎない」
当主様から発せられる言葉は、大きな闇に覆われている事を露わにしていた。
『そもそも鬼籍に名がなかったところで、ハッキリしていた事じゃねえか』
『まあな』
鬼籍に名がなかったって……。
「総代。それは……生も死もない……だが、それでも生も死もあると言えるという事ですね」
羽矢さんの言葉に当主様は、その通りだと頷いた。
『聖王』……徳を持つ国の主。
生も死もなく、生も死もある。
一見、不可解である言葉だが、これには一つの答えしか含まれていない。
聖王の身体自体が……。
最後の『依代』だ。