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処の境界  作者: 成橋 阿樹
第三章 天と地
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第10話 折伏

 天より下されし宣託。

 舞い降りた符は意向を示し、その意向を掴み取る。

 地に眠る魂は、拠り所となる力を得て、目覚めを遂げる。

 それが……成就というのだろう。



 風が重圧を掛けてくる。

 まるで、舞い上がる符を押さえつけるようだ。

 バラバラに舞い散った符が、整然と一箇所に集まり始める。


 ……重い。

 だが、この重さは位置を示している。

 まるで……強制的にも正しく導くようだ。


 地から強く吹き上がった風は、天から地へと向きを変え、符を押さえ付けるように重圧を掛け続けていた。

 見上げれば、頭上一面に符が広がっていた。


「行けっ……! 羽矢! 回向!」

 蓮の声が大きく響いた。

「「任せておけ!」」

 同時に声が返り、二人が動きを見せる。

 羽矢さんの持つ数珠が空を切り、回向の持つ錫杖が音を響かせた。


 回向は、羽矢さんの後方に回ると、背中合わせに立った。


 羽矢さんは、大きく息をつくと、口を開く。

「開示」

 羽矢さんの言葉の後に、回向が続く。

合殺(かっさつ)

 そして、二人の声が同じに重なり、強く弾けるように響いた。


「「願……!! 」」


 二人の声が空間を震わし、頭上に張り巡る符をゆらりと小さく揺らした。

 羽矢さんと回向が顔を見合わせ、眉を顰める。

 二人の様子が変わると、僕たちへと目線が向いた。

 その目線が緊迫感を伝えてくる。

「え……?」

 どうしたのかと彼らを見る僕。

 二人の様子がおかしい。

 少しの戸惑いが、次の瞬間に大きな驚きへと変わった。


「伏せろーっ……!!」

 回向が僕たちへと飛び込んでくる。

 羽矢さんも方向を変え、回向の後を追って僕たちへと走った。


 回向の腕に押され、蓮と共に地に伏せる。

 穏やかならぬ状況に、蓮は直ぐ様、半身を起こした。


「柊!」

 蓮の声が響くが、返りがない。

 それどころか、あれ程、光が弾けて明るかった空間に闇が落ちた。

 ……何故……。

 まさか……切断された……?

 そう不安を抱えたと同時に、カッと弾けた光を見る。

 明るく辺りを照らした光に、思い違いかと安堵を取り戻そうとした瞬間。

 バリバリと耳を貫く程の轟音が響き、ドオンッと地を震わせた。

 金色であったはずの辺りが真っ赤に染まった。

 目に映るものは、確かに辺りを照らしてはいたが、それは……。


「燃えてる……」

 僕のその声は震えていた。

 ……燃えている。あの時と同じ……光景……。


 投げ出された仏の像に矢を放ち……火をつけた……。

 この場所で……この場所が……また……。

「あ……あ……」

 目に焼き付けるように映る真っ赤な火が、体を硬直させて、声まで奪う。

 混乱を始める僕だったが、蓮の声にハッとする。


「羽矢っ……!!」


 ……違う。違う。


「羽矢っ……!!」

 回向が羽矢さんへと歩を急いだ。


 相手は……死神をも倒せる者……。


 うつ伏せに地に倒れている羽矢さんが目に映る。

 羽矢さんはピクリとも動かない。

「羽……!」

 驚きと恐怖で声が続かず、僕は息を詰まらせた。


 違う。違う。


 バリバリと空間を裂く稲光。重く地に落とす轟音が、激しく辺りを赤く、赤く、真っ赤に燃やす。

 羽矢さんへと急ぐ僕たちの前を阻む声が、界を裂くようだった。



「道を繋ぎ、導きを与え、説き伏せて私を従わせるつもりだったか? 従うのはお前たちの方だ。私に従わなければ、即刻、焼き殺す」



 仏が主で神が従。

 神が主で仏が従。


 仏は祟らないが。


 ……神は祟る。

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