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処の境界  作者: 成橋 阿樹
第三章 天と地
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第8話 秘密

 門派を問わず、全ての神社、寺院に立ち入る事が出来る……。


 僕と蓮の前に、羽矢さんが立ち、その隣に回向が並んだ。

 僕は、前に立った回向の背中を見つめた。


 多を有して一を成す。


 僕の目が羽矢さんの背中へと移る。


 互いに作用し……調和を保つ。


『経典が何冊あると思っている』


『そもそも俺は『無量』だから』


 如来無尽の大悲をもって、三界(さんがい)矜哀(こうあい)す。


「……蓮は……分かっていたんですか……?」

「俺が分かっていたんじゃない。羽矢が分かっていたんだ」

「……そうでしたね」

「分かっていたから、使ったんだろう」

「真言……慈救呪の事……ですよね。正直、驚きました。そこまで突き詰めていたのかと」

「ああ、そうだな……」

「……はい」

「本来ならば、羽矢が真言を唱える事はない。真言を使うのは回向の方だろう」

設害三界一切有情せっかいさんかいいっせいゆうせい不堕悪趣(ふだあくしゅ)……それもですよね」

「まあな……住職も言っていたように、父上には父上の考えがある……羽矢に託したのも理解出来るよ。漢音で読むその経は、簡単には理解出来ない。簡単に理解出来ないようにしてあるんだよ。それだけに秘密が多いとも言えるだろう」

「そうですね……」

「ああ。冥府自体が神仏混淆……」

 蓮はそう口にしながら、高宮へと視線を向けると、蓮の言葉に重ねるように、高宮が口を開いた。


「加えて紫条家は、神仏混淆を残す『処』……繋がらないはずがありません。元より神世。その思想は神道においても同じ事です。神仏分離で神と仏を分けようとも、神社と名を変えた寺院は、権現を神と祀り、仏を隠す……それでも権現を良しとはせず、権現禁止の令まで下ると、表にする神は国津神、天津神も置かれ、天も地も元より神世……神が天と地を創り、国が生まれたとする国生みの思想です。本地垂迹を唱え、その中に国津神や天津神が置かれる事も、神仏混淆である事を主張するものでもあり、神仏分離を免れる為でもあったのでしょう。ですが、神仏分離が行われても、混ざり合ってくるものは怨霊信仰です。切り離せはしません」


「神を主とするならば、その宣託は天にある。なあ、蓮、『神籤』を引くか?」


 羽矢さんが後ろにいる僕たちを振り向き、そう言葉を挟むと、ニヤリと笑みを見せた。

「好きにしろ」

 蓮は、呆れたように溜息をついたが、後に笑みを漏らした。その笑みは羽矢さんを信頼しているという証だ。

 羽矢さんの隣に立つ回向は、振り向く事なく、天を見上げたまま、羽矢さんの言葉の後を続けるように答える。


「人神は神号を与えられて神となる。例えば『天神』とか、な。そしてその神は、仏の道を守る神……護法善神に加えられる。明王もその一つだ。人神は、神号を与えられ、天神地祇(てんじんちぎ)と結びつく事で神号が確立し、神となる。だが、祟り神にする事も可能なものだ。そもそもが人神は、怨念の強さにある。その怨念の強さと結び付ける神は、当然、怨念の強さに匹敵する神が必然だ。だから……」


 錫杖を持つ回向の手が天へと向くと、羽矢さんは数珠を持つ手に力を込めた。


「天より与えられる神号……その宣託を乞う祭文を、俺が変える」


 はっきりとした口調で言った回向に、蓮が答える。


「ああ。だから行けよ。俺の領域だ。好きに使え」

「紫条……」

「……」

 回向の目線を、無言で受ける蓮。

「なんだよ?」

 言葉の返りがない事に、回向は顔を顰めた。

「お前……羽矢にそっくりだな」

「俺が……羽矢と? は……何を……」

「それとも……合わせているのか?」

「馬鹿な……なんで俺が……」

「お前も簡単に気を許すじゃないか。だが……」

 蓮は、少し不快な顔を見せる回向に、揶揄うようにも笑いながらこう言った。


「お前の目も、確かなようだな?」

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