第6話 神世
『人神は、神号を与えられて神となる。例えば『天神』とかな。だがこれは特定の神の名じゃない。神格がつき、神号が確立すると、権現と言われ、それは神仏混淆と同じ。『天神』の姿は一つではなく、冥府の王と繋がる化身を作る事が出来る』
神と仏に対しての願文。その祭文に宣託が下り、神格を与えられる。
与えられた神格と結びつけば、その神の力を、自らの力として使う事が出来る。
それが名を持つ神……特定の神の名を持つ神となるという事だ。
回向も高宮も、蓮の動きに目を見張っている。
神は仏の化身……本来の境地は一つであっても、化身となる神の境地は一つだとは言えない。
闇にも光にも、求め方次第で変わる神の力は、闇に傾けば災いを招く。
その闇が既にあるというのだから、やはり穏やかではない。
だが、闇にも光にもなる神は、同じ一つの神であり、真逆であっても重なるものだ。
だからこその橋だと言えるのだろう。
神が宿る為の依代。
その依代が次々と光を放ち始めている。
明らかなるものは上部に落ち着いて天となり、暗くも濁ったものは下部へと落ち着いて地となる。
だけどそれは……。
蓮。
自信に満ちたその表情は、笑みに包まれていて、舞うようにも大きく振る手が天を動かし、神を地に降り立たせている……そう見えた。
蓮の動きに合わせて、天より地に舞い降りる光。柊が天高く舞い上がり、より一層、明るい光を辺りに放った。
無数に広がる光が蓮に纏い、ゆらりゆらりと戯れるように舞いながら、降り立つべき依代へと光りを降り注いでいく。
眩しくも広がる光だったが、目を細める事はなかった。
「繋がれば一本道……か。成程……流石だな」
その様を見守るように見る羽矢さんが、そう言葉を漏らした。
「ああ。確かに……橋が繋がれば一本道だ……」
回向は、呟くように言葉を漏らしながら、変化を見せていく辺りを見回していた。
それでも目線は、蓮へと落ち着く。
まるで……空間全てを従えているみたいだ。
あの時も……そう見えた。
移された地蔵菩薩を確認する為にも、羽矢さんの寺院へと向かったあの日。
空を仰ぎながら、僕を待っていた蓮。降り落ちる葉が、蓮に纏うようだった。蓮の元へと降り立つみたいに……。
僕の視線に気づく蓮が、ゆっくりと振り向いて笑みを見せた。
「依」
ただ……。
「おいで、依」
そこにある存在だけを見ていた。
闇を押し退けて、眩いばかりの光が、その存在を照らしていた。
僕を導くように差し出された手は、迷う事のない道を示している。
僕は、伸ばされた手を追うように手を伸ばした。
闇が全てを覆い尽くして、光など差し込む事もない場所。
だけどそこには、放たれるべき光がある事を物語っている。
その光に導かれるように歩を進める僕に、羽矢さんたちも続き、蓮の元へと集まった。
僕と蓮の目線が一線に重なる。
向けられる蓮の目は、あの時と変わらず、力強く掴まれる手が、温度を伝える。
全ての依代に光が収まると、ひらりひらりと符が降りて来た。
符が依代に貼り付き、カッと光が弾ける。
……神格を与えられて、依代が目覚める。
「蓮。これがお前の領域……か」
羽矢さんは、笑みを見せながら口を開くと、蓮の肩をポンと叩いた。
蓮は、クスリと笑みを漏らして答えた。
「ああ。天も地も……元より神世だ」