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処の境界  作者: 成橋 阿樹
第三章 天と地
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第6話 神世

『人神は、神号を与えられて神となる。例えば『天神』とかな。だがこれは特定の神の名じゃない。神格がつき、神号が確立すると、権現(ごんげん)と言われ、それは神仏混淆と同じ。『天神』の姿は一つではなく、冥府の王と繋がる化身を作る事が出来る』



 神と仏に対しての願文。その祭文に宣託が下り、神格を与えられる。

 与えられた神格と結びつけば、その神の力を、自らの力として使う事が出来る。

 それが名を持つ神……特定の神の名を持つ神となるという事だ。


 回向も高宮も、蓮の動きに目を見張っている。

 神は仏の化身……本来の境地は一つであっても、化身となる神の境地は一つだとは言えない。

 闇にも光にも、求め方次第で変わる神の力は、闇に傾けば災いを招く。

 その闇が既にあるというのだから、やはり穏やかではない。

 だが、闇にも光にもなる神は、同じ一つの神であり、真逆であっても重なるものだ。

 だからこその橋だと言えるのだろう。



 神が宿る為の依代。

 その依代が次々と光を放ち始めている。


 明らかなるものは上部に落ち着いて天となり、暗くも濁ったものは下部へと落ち着いて地となる。


 だけどそれは……。


 蓮。


 自信に満ちたその表情は、笑みに包まれていて、舞うようにも大きく振る手が天を動かし、神を地に降り立たせている……そう見えた。


 蓮の動きに合わせて、天より地に舞い降りる光。柊が天高く舞い上がり、より一層、明るい光を辺りに放った。

 無数に広がる光が蓮に纏い、ゆらりゆらりと戯れるように舞いながら、降り立つべき依代へと光りを降り注いでいく。

 眩しくも広がる光だったが、目を細める事はなかった。


「繋がれば一本道……か。成程……流石だな」

 その様を見守るように見る羽矢さんが、そう言葉を漏らした。

「ああ。確かに……橋が繋がれば一本道だ……」

 回向は、呟くように言葉を漏らしながら、変化を見せていく辺りを見回していた。

 それでも目線は、蓮へと落ち着く。


 まるで……空間全てを従えているみたいだ。

 あの時も……そう見えた。


 移された地蔵菩薩を確認する為にも、羽矢さんの寺院へと向かったあの日。

 空を仰ぎながら、僕を待っていた蓮。降り落ちる葉が、蓮に纏うようだった。蓮の元へと降り立つみたいに……。


 僕の視線に気づく蓮が、ゆっくりと振り向いて笑みを見せた。


「依」


 ただ……。


「おいで、依」


 そこにある存在だけを見ていた。

 闇を押し退けて、(まばゆ)いばかりの光が、その存在を照らしていた。

 僕を導くように差し出された手は、迷う事のない道を示している。


 僕は、伸ばされた手を追うように手を伸ばした。


 闇が全てを覆い尽くして、光など差し込む事もない場所。

 だけどそこには、放たれるべき光がある事を物語っている。

 その光に導かれるように歩を進める僕に、羽矢さんたちも続き、蓮の元へと集まった。


 僕と蓮の目線が一線に重なる。

 向けられる蓮の目は、あの時と変わらず、力強く掴まれる手が、温度を伝える。

 全ての依代に光が収まると、ひらりひらりと符が降りて来た。

 符が依代に貼り付き、カッと光が弾ける。


 ……神格を与えられて、依代が目覚める。


「蓮。これがお前の領域……か」

 羽矢さんは、笑みを見せながら口を開くと、蓮の肩をポンと叩いた。

 蓮は、クスリと笑みを漏らして答えた。


「ああ。天も地も……元より神世(かみよ)だ」

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