表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
処の境界  作者: 成橋 阿樹
第三章 天と地
77/182

第5話 御霊

『明らかなるものは上部に落ち着き、暗くも濁ったものは下部へと落ち着く』


 はっきりとした蓮の声が響く。


「さあ……開闢(かいびゃく)だ」


 蓮の表情には笑みが浮かんでいて、何の不安もない堂々とした佇まいが、これから起こる事に対しての自信を見せていた。


 上部に落ち着いたものは天となり、下部へと落ち着いたものは地となった。

 仏の道が開かれるより以前からあった、神への信仰。


 神は仏の化身だと、同一視されていた神仏混淆。

 だが、神仏分離で神と仏は分けられた。

 それは人の手によっての事だ。


 ……ああ……そうだ。

 僕は、辺りを見回した。


『この山に眠る依代は、数にして百八十八……』


 ……依代。

 確認するように浮かんだ言葉に、回向が言った言葉が重なった。


『ここは神域。社殿の必要はない。必要なのは、依代と、そこに宿らせる魂だけ』


 神を宿らせる為の依代なのだから、依代を必要とするのは神であり、その依代に神が宿れば、それが神体となる。

 寺院に置かれる本尊は、秘仏でない限り、その目で姿を見る事が出来る。

 だが、神社に祀られる祭神は、その姿を見る事が出来ない。見る事が出来るのは、神が宿っているとされるものだ。



 ……開闢。

 天と地が分かれし時、神が生まれた。

 神という御霊(みたま)が現れたんだ。


 全ての界より誘し出でる、神という名をもって降り立つ式神。

 柊の言葉が浮かんだ。

『化作されたものに本来の姿を問うのは可笑しな事……』

 ……化作。


 回向は……だからあんな事を言ったんだ。

『仏は祟らないが、神は祟る。その思想は、祟るという言葉だけに執着し、それが(すべ)だとその力を利用する。あの神木は、廃仏毀釈が起こった場所にあったものだと、その神木を移された神社は、怨みを晴らす事に力を貸してくれる……そう都合のいい解釈を押し付けたんだ』


 今まで耳にした言葉が、頭の中で弾けていく。


 元より神と仏が併存していた神域と呼べる大霊山。

 この山には霊魂があった。

 神と仏が併存しているという中で、人神(ひとがみ)があるという事。

 怨霊信仰。悪霊崇拝。

 ……御霊。


 (ひら)けた視界に、無数の依代が光って見えた。

 姿などない。形などない。

 だからこそ、そこにある依代に力を宿す。


『そもそもが怨念を鎮める為に祀るものだろう』

 そう……怨念を鎮めて祀る……。

 それは怨霊信仰そのもので、怨念を鎮め、祟りを免れる為に御霊(ごりょう)と呼び、敬う。

 そしてそれは、羽矢さんが言っていたように、神号を与えられて神となったものであり、そこに神格を結びつけ、その神が持つ性質を合わせて、鎮護の神とするものだ。

 だがこれを利用して、鬼神、または祟り神とする事が可能なら、災いなど避けようもない事だ。


『親父は……その(すべ)を知っているんだからな』


 その術とは……。

 ああ……そうか。

 だから……回向と高宮なのか。

 僕は、気づきを得ると、回向と高宮へと視線を向けた。

 回向は、錫杖を持つ手に力を込めている。

 その真剣な眼差しを、高宮がじっと捉えていた。


 神道の祝詞(のりと)を元に、仏教の声明(しょうみょう)の影響を受け、験者に受け継がれたもの。

 神仏混淆であったからこそだ。


 それは……。


 神と仏に対して発せられる願文。

祭文(さいもん)』だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ