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処の境界  作者: 成橋 阿樹
第三章 天と地
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第3話 固有

「では……蓮様」

 柊は、そっと目を伏せ、小さく頭を下げた。

 そして、笑みを止めた冷ややかにも見える表情を見せ、空でも掴むかのように手を振り上げる。

 ……空が……動き出す。

 ただ一つの光に群がるように、雲が流れ始めた。

 雲が次第に陽を覆い、光を遮り始めると、サアッと冷たい風が頬を掠めていった。

 辺りが暗くなっていく事に、僕たちの目線があちこちに回る。

 風が木々を揺らし、ざわざわと音を響かせた。


「……成程。これは中々に困難だ」

 蓮がそう呟いたが、クスリと笑みを漏らすその様子は、恐れなど見せてはいない。

 それは羽矢さんも同じだった。

「……羽矢」

 蓮の呼び声に、羽矢さんは深く頷く。

「蓮……ここからはお前の領域だな」

 そう言って羽矢さんは、蓮の隣に立った。

「ああ……俺の領域だ」

「道案内は任せたぞ、蓮」

「ふん……道案内も何も、繋がれば一本道だ。ついて来るだろう?」

 蓮は、回向と高宮を振り向いて言った。

「勿論だ」

「ええ、勿論です。それを願っていたのですから」


 光があれば闇は消える……ただそこに光がないだけ……。

 僕は、その言葉を頭の中に巡らせながら、暗くなっていく空を仰いだ。

 光が閉ざされていく。何も見えない……いや……暗闇だけが見えている。


「光など差す事もない場所ならば、その闇は元々そこに存在しているもの……」

 僕の口から、高宮が河原で伝えた言葉が吐き出された。

「……依」

 蓮の低い声が僕を振り向かせたが。

「……蓮……」

 互いの姿が見えなくなった暗闇。蓮の姿も捉える事が出来ない。

 僕は、少し不安になった。

「俺はここにいるよ、依」

 聞こえる声と手に感じる体温が、蓮との距離を伝えていた。

「……はい」

 僕は、繋がれた手の感触に安心を得ていた。

 離れる事のないように……伝わってくる温度と力が強さを結ぶ。


「さて……」

 蓮はそう呟くと、クスリと笑みを漏らした。

「油断するなよ、蓮。僅かな隙でも見せれば……」

「羽矢」

 羽矢さんの言葉を遮る蓮。

 名を呼んだその声の響きに、羽矢さんは蓮の思いを察しているようだった。

 ああ……そうだ。

 相手は死神さえも倒す事が出来るという者だ。

「……分かっている、蓮。心配には及ばない」

「ああ。頼りにしてるぞ……『死神』」

「任せておけ」

 自信を持って言った羽矢さんに、回向の呆れた溜息が流れた。

「お前のその自信は何処から来るんだ……侮るなよ、羽矢」

「侮ってなどいないさ……俺の頭の中にある文字には、回向、お前の頭の中にある文字を頼れと教えている」

「なにを……」

「お前が信じているものを、俺も信じているからな」

「……羽矢」

「話はここまでとしようか。蓮」

「ああ、分かった。じゃあ……行くか」

 蓮の声に皆の足が歩を進め出す。

 何も映し出す事のない暗闇に、蓮の声が道標となるような言葉を聞きながら。


「神は神を殺す神殺し……その不興(ふきょう)を買ったが上に招いた、閉ざされた『戸』……開きに行こうとしようか」


 光があれば闇は消える。

 だが……闇が消えたとして、その闇は何処に消えたというのか。

 作られたものでもなく、作り変えられたものでもない。

 作られる事もなく、作り変えられる事もない。


 ただ固有の……自性。

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