第25話 因果
高宮を見掛けた霊園。
仏の道でも神の道でも、納骨、埋葬が可能な場所。
広く、並び立つ墓石の中で、見渡す事が出来れば、その墓を見つける事が出来る。
神道の墓石は、先が少し尖っているからだ。
その墓石の前に高宮はいた。
『あちらで神司を見掛けたものですから……』
『神司? 遺族もいないのにか?』
たった一人で、そこにいた。
『奥都城』と刻まれた墓石には、家名はなかった。
……家名が……なかったんだ。
そして……。
……どうして直ぐに気づかなかったのだろう。
奥都城。
奥津城とも刻まれるが、『都』の字を刻まれるのは……神職者だ。
『逆もまた然り、だろ』
……逆……か……。
僕を振り向いた高宮のその笑みは、霊園で目が合った時に見せた笑みと重なった。
錫杖を振る回向の声が流れる中、高宮が磐座へと近づき、そっと手を触れる。
磐座に腰を下ろす高宮は、そっと目を閉じた。
錫杖を回向が大きく振ると、磐座に座った高宮をうっすらとした霧が包んだ。
僕は、回向へと視線を向けた。
二つの道を知っている験者、水景 回向。
その名を持って、その名に背く……か。
自分の積み重ねた功徳を、相手に与え、共に浄界へと導く。
その事に背くという事……。
錫杖を下ろした回向が、僕たちを振り向く。
回向の目が羽矢さんを捉えると、羽矢さんは回向との間を詰めた。
「……羽矢……お前は、たった一つの道があれば、それだけで全てが報われると思うか」
「回向……」
「冥府へと導き、更に浄界へと向かわせる為に法要を行い、善を積む……死者は本当に誰もが浄界を望んでいるのか。輪廻転生……それは当たり前に生まれ変わりを望める言葉じゃない。大抵は六道の中のどの界に転生出来るか、させられるか、その中にこの下界が含まれているだけであって、六道より上部の浄界へ導くまでにどれ程掛かる」
「だから……験者になったんだろう。回向」
「俺の進む仏の道は、羽矢……お前の進む仏の道と終着点が違う」
「それが真実だと?」
「それが最後の教えだろう」
「『近道』だろ」
回向の言葉に重ねるように、羽矢さんが答えた。
近道……。
羽矢さんが言っていた言葉……。
『四十九日も掛からない。それも……下界に戻れる『近道』だ』
そして、高宮が言っていた言葉が思い起こされた。
『怨みが晴らせるなら、報われるではないですか。例えそれで消滅しても、それこそが浄界へと向かったと言ってもいいくらいではないですか』
「回向……意味を履き違えていないか」
「……言っただろう」
回向は、苦笑しながら目を伏せる。そして、羽矢さんへと目線を戻すと言葉を続けた。
「その名が嫌いだと」
「それでも、お前が背負っている一つの言葉は、答えなんじゃないのか」
「そうだと答えたら、話は終わるのか? お前が好まない無駄な話だ」
回向の言葉に羽矢さんは、深い溜息をついた。
回向はまた磐座へと向き直り、また大きく錫杖を振った。
高宮が纏った霧が裂かれる。
高宮の姿がはっきり捉えられると、衣冠姿の高宮が、ゆっくりと目を開けた。
高宮は、僕たちを真っ直ぐに見ると、口を開く。
口に出される言葉は、一度、高宮が口にした言葉だった。
「己が募らせた思いを叶える術を持っているのなら、己がその術を使う事は公平であると言えますか? そして、その術がどのように作用しようとも、力ある者がその力を封じる事は公平でしょうか」
そして、続けられた言葉に真意が見えた。
「私をそうさせたのは……誰ですか」