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処の境界  作者: 成橋 阿樹
第二章 道と界
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第23話 磐座

 依代の確認か……。

 やっぱり蓮も、依代が目覚めているとは思っていないんだ。

 回向にしても、誘導するようなこの行動。

 口から出る言葉とは裏腹だ。

 そして、この山をよく知っている。

 木々が生い茂り、目に見える道幅は狭い……だが回向は、背負う羽矢さんを気にしながらも、木々の間を抜けて行く。その様子から、そこに辿り着ける場所があるんだと分かった。

 依代に近づけるところがあるのは確かな事だろう。

 僕が落ちた場所も、依代に辿り着ける道があったのだから。木々がその場所を隠していただけだ。

 

 足を止めた回向は、僕たちを振り向くとこう答えた。

「ここは中心だ」

 中心……。この山の中心って事か……。

 回向は、淡々とした口調で話を始めた。

「仏の像を破壊しても、祟りに触れた者はいなかった。無駄な信仰をしたものだという声があがっていた。廃仏毀釈を行ったのは、神職者だけじゃない。檀信徒もだ。今のように自らが望んで檀信徒になった訳じゃない。誰もが寺院に名を置くよう定められていた時期があったからだ。それでも死後の事を考えれば、それも難しい話じゃなかったが、時が経つに連れて、力の強さが寺院に傾き、神職者だけではなく、檀信徒にも不満が出始めた。神仏分離は、確かに廃仏毀釈に拍車を掛けたが、その前から不満はあったんだ」

「仏が主で神が従……か」

 蓮は、呟くようにそう言い、深い溜息をついた。

「羽矢を下ろしていいか」

「ああ、分かった。依。羽矢を下ろすから、手伝ってくれ」

「はい」

 蓮と共に、回向の背中から、羽矢さんを抱える。

 回向と高宮は、先へと向かって行ったが、そう遠く進む事はなく足を止めると、その場に立つ。

 彼らの見ている先に、大きな石が積まれているのが見えた。

 ……磐座(いわくら)……か。


 羽矢さんを地に下ろしながら、蓮は小声で言う。

「寝たフリしてんじゃねえ。起きろよ、羽矢」

 え……? 寝たフリ……?

「着いたのか」

 目を閉じたまま、羽矢さんが静かに答えた。

「お前、回向になんか言っただろ。わざわざ抱きついて耳打ちか」

「あ、気づいてた?」

「当たり前だろ。大体、お前がこんな時に寝るかよ? 僅かでも隙を見せるなと俺に言っておいて、お前が隙だらけっておかしいだろーが」

「あまりにも簡単に魂を解放したし、俺の寝首を掻けると言って、寝たフリだろうが背負って来たんだ。真意は変わってねえよ」

「お前……それを確かめたのか」

「意地を張るだけ長引くからな。話は簡潔に終わらせたい。そうでなくても、毎日のように読経だ、誦経だをやってんだぞ。そもそも、経典が何冊あると思っている? 俺の頭の中にどれ程の文字が詰め込まれてると思ってんだ。余計な言葉は聞きたくねえ」

「俺に当たるな、愚痴るな、さっさと起きろ」

「少しくらい横になったっていいだろ。鬼かよ」

「ふん……冥府に行けば、夜も昼もないだろう。苦行は得意だろーが」

「得意な訳じゃねえ。ジジイの説法よりマシなだけだ」

「はは。正直俺には、お前の方が半俗に見えるがな?」

「蓮……お前な……。まあ、それよりも……」

 羽矢さんは目を開けると、ゆっくりと半身を起こした。

「ああ、そうだな」

「貴重だぞ、蓮……」

 羽矢さんは、目線を回向へと向けると、うっすらと笑みを浮かべて言葉を続けた。


「『神宿(かみやど)り』が見られる。本物の……な」

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