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処の境界  作者: 成橋 阿樹
第二章 道と界
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第17話 改称

「僧侶は還俗して、神職者になっているだろうからな」


 羽矢さんのその言葉に、目を伏せた高宮の口元には笑みが見えていた。

 羽矢さんは真顔のまま、表情を変えずに高宮を見ていた。高宮は、羽矢さんの視線に気づいているだろう。だから尚、高宮のその表情は意味ありげに見えた。

「……分かりました」

 高宮は、少し間を置いて、否定も肯定もせずにそう答えると、伏せた目を上げ、僕たちを見ると言葉を続ける。

「協力するとお答えした以上、お話をしない訳にはいきませんね。では、ついて来て頂けますか」

 歩を進め始める高宮だったが、僕はやはり警戒してしまう。

 だけど、羽矢さんは躊躇う事もなく、高宮の後をついて行った。

「依。行こう」

 蓮の手が僕の背中を支えるように、そっと置かれる。

「はい」

 僕と蓮も歩を進め、羽矢さんと肩を並べた。


「……どう思う、蓮」

 羽矢さんは、高宮の後ろ姿を見ながら、呟くように蓮に聞いた。

 高宮が行く道は、羽矢さんが来た方向からだった。

 羽矢さんは、既に分かっているんだ……。

 それはきっと、一人でこの山に来た時から気づいていた事だろう。

 ああ、だけど……。

 当主様が羽矢さんのところに、地蔵菩薩を移した時からだ。

 だから、あの言葉が羽矢さんの口から出たんだと改めて思った。


『門を開けた時から分かっていた事だ』

『俺はお前の為だと思ってって……』


 廃仏毀釈で僧侶は還俗。

 神が主で仏が従……か。

 確かにあの時、高宮はその言葉を言っていた。

『そもそも、神仏混淆というものは仏の道から神の道を解釈したものであり、両部神道の理論です。仏が主で、神が従……それが本地垂迹ではないですか。ですが、神が主で仏が従、反本地垂迹が神道の優位を示し、その思想に傾いた結果が廃仏毀釈なのではないですか?』

 神と仏、神社と寺院の境界が曖昧である事に対し、はっきりと分ける為に分離が行われたが、神道が優位になる事は根底にあったんだ。

 それは……国家神道……。


「羽矢……お前、根拠もなしに言った訳じゃねえんだろ?」

「勿論だ。だが……」

「なんだ?」

「神と仏を同一視する神仏混淆、この場所に限らず、神と仏をはっきりと分ける為にも、寺院の数は徹底的に調べ上げられたんだ」

「ああ。廃仏毀釈は僧侶に還俗を迫り、神職者にならざるを得なかった……そうだろ」

「まあな」

 羽矢さんは、高宮の背中をじっと見たまま、蓮と会話を続ける。

「蓮……分離に至っては当然、仏の像が置かれている神社からも、仏の像は運び出された訳だが……」

「阿弥陀如来もって事……か」

「そうだ」

「……成程な。そういう訳か」

「ああ。そういう訳だ。本地垂迹での垂迹神……それが表に立つって訳だ」

「反本地垂迹……それも手立てにはなる、か……」

「そうだな。高宮 右京……奴を信用している訳ではないが、奴の道案内は確かなようだ。まあ……奴の動きに目を離せはしないがな」

 羽矢さんは、ふうっと長く息をつくと、高宮の行く道先を真っ直ぐに見ながら、蓮に聞いた。


「なあ、蓮。それでも仏堂を残し、分離をなんとか乗り越えようとした方法……知っているか?」

 蓮は、羽矢さんの言葉に直ぐに答える。

「ああ、勿論、知っている」


 蓮は、高宮が足を止めた道の先に目線を向けて答えた。


「改称だ」

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