表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
処の境界  作者: 成橋 阿樹
第二章 道と界
51/182

第13話 六外

「祓えると言うのなら、祓って頂きましょう。紫条 蓮」


「高宮……お前……」

「それとも……鎮めて祀りますか?」

「……ふざけるな」


 込み上げてくる悔しさが憎しみまで呼ぶようで、抑えようとすればする程、苦しさに襲われ、蓮の腕の中で僕は(もが)き始めた。

 いっその事、この苦しさを吐き出してしまえば楽になるのだろう。そう思う部分もあったが、それはダメだと引き留める思いもあった。

 きっと、楽になる分だけ正気を失う。

「依……!」

 暴れるように動く僕だったが、蓮は僕を抱き締め続ける。

 あまりにも僕が暴れる事に、羽矢さんが駆けつけた。


「そちらにばかり気を取られていない方がいいですよ。言ったではないですか……」

「蓮っ……!」

 羽矢さんの声が響くと同時に、立ち上った光が空でバチッと弾けた。

 火花のように散った光が、辺りに降り落ちた。


「正体を隠した化身と眷属は……どの界にもいる……と。当然、それはこの下界もですよ」


 降り落ちた光が姿を現すと同時に、強い風にドンッと押された。

 吹き荒れる風に、空を這う稲光。

 バリバリと轟音を響かせる雷鳴が、地まで震わせた。

 土埃が舞い、視界を霞ませる。

 僕を襲う苦しみは、どんどん膨らんでいくようで、苦しさから逃れようとすればする程、全身の感覚が遠くなっていくようだった。

 今の状況がどうなっているのかは、ぼんやりとしながらも、追い詰められていると頭の何処かで気づいていた。


 鬼神に……囲まれている。


「祓えないのなら手放して下さい、紫条 蓮。私が……仕えますから」

「……言っただろーが……お前にだけは絶対に渡さないと」

 近くにいるはずの蓮の声が遠くに聞こえる。僕を掴む蓮の手の感覚も分からなくなり、目に映るもの全てが色褪せて、薄れていくようだった。

 ただ……苦しみを吐き出す自分の声だけが、はっきりと聞こえている。

 段々と力が抜けていく……僕の呼吸が浅くなる。

「依」

 羽矢さんの声に、息も絶え絶えに虚ろにも開けた目。羽矢さんの指が僕へと向いている。


 ……羽矢さん……何を……。


 蓮が僕を抱き締め続け、羽矢さんの指が僕の目元、耳元、鼻、口元、体に頭にとそっと触れながら、言葉を発し始めた。


(しき)、視覚に置き、(しょう)、聴覚に置き、(こう)、嗅覚に置き、()、味覚に置き、(そく)、触覚に置き、(ほう)、知覚概念全てに置く」


 羽矢さんの言葉の後に、蓮が続いた。


 この言葉は……。


 ああ……僕の中に飛び込んでくるように響いていた言葉は……ここにあったんだ。


(げん)、視覚に置き、()、聴覚に置き、()、嗅覚に置き、(ぜつ)、味覚に置き、(しん)、触覚に置き、()、知覚に置く。全てに(しき)を置き、『処の境界』を定める」


 処の境界……。

 我が……器。


 全ての感覚が、はっきりと伝えられてくる。目に捉えられる姿も色も、耳に聞こえる声も音も……遠くなっていた意識も全て、僕に溶け込むようにスウッと戻ってきた。

 そして、蓮の言葉を追って、僕は言葉を続けた。


『俺が何処に進もうと、お前はついて来ると……信じていたからな』 

 ……僕は……失わない。


(げん)、視覚に置き、()、聴覚に置き、()、嗅覚に置き、(ぜつ)、味覚に置き、(しん)、触覚に置き、()、知覚に置く。我が器を処とし、境界を定める……!」


 僕が言い終えると、近づいて来ている鬼神の歩が止まる。

 僕と蓮、羽矢さんの周りに、境界が敷かれた。

 鬼神は、境界によって遮られ、僕たちに近づく事は出来なかった。


 はっきりと目を開ける僕は、蓮の手を借りて地に足を下ろした。

「依」

 蓮が心配そうに見ていたが、僕は大丈夫と蓮に告げた。

 そして、怨めしそうに僕を見る高宮に、僕は言った。


「あなたには……絶対に僕を掴めない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ