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処の境界  作者: 成橋 阿樹
第二章 道と界
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第9話 神域

 黄泉比良坂(よもつひらさか)は、黄泉との境界であり、そこを抜けると黄泉がある。神の道で言われる死者が行くという場所だ。

 高宮が河原にいたというのにも、この泉と河原が繋げられているとでもいう事なのだろうか。

 冥府と黄泉は、死者が向かう場所という事では同じではあるが……。


 僕は、辺りを見回す。

 まるで……森の中にいるみたいだ。

 ボンッと破裂するような鈍い音がした。その音が聞こえた方を振り向く。

 泉が水を噴き上げ、雫が天に広がったかと思うと、人形(ひとかた)に変わった。

 天に張り巡らせたように広がった人形は落ちずに留まり、闇を作るように下にいる僕たちに影を落とした。

 羽矢さんは大鎌を構え、天を切る。

 閃光が走ると、バラバラと人形が落ちてきた。

 切り開かれた人形から、うっすらとした青白い光が浮かんでいる。

 青白い光は次第に人形から離れて、辺りを浮遊し始めた。

 これは……。

 人形を依代に魂を……。


 羽矢さんは屈むと、そっと人形に触れた。

「河原と泉が繋げられたというなら……これは冥府から奪われた魂か……」

 そう言うと羽矢さんは指を弾き、使い魔を呼ぶ。

 大蛇の形を作った羽矢さんの使い魔が、辺りをぐるりと周り、全ての魂を飲み込んだ。

「だからといって、ここに留まらせるだけとは考え(がた)いな」

「そんな事は分かっていた事だろ、羽矢。わざわざ冥府から魂を奪うくらいだからな」

「……ああ、まあな」

 羽矢さんが再度、指を弾くと、魂を飲み込んだ使い魔は、泉の中へと潜っていった。

「使い魔が冥府に辿り着いたと同時に、道を塞ぐ。だが……既に下界に逃げた魂もあるはずだ」

「……そうだろうな」

「蓮。分かっているだろう?」

「ああ、羽矢」

 泉の先へと僕たちは歩を進めた。

 そこには洞窟があった。

 洞窟を前にする僕たちは、先の見えない暗闇をじっと見据える。

「蓮。俺は俺の道を行く。お前は……」

「ああ。俺は俺の道を行く」

「じゃあ、蓮。行くぞ」

「ああ。依、行こう」

「はい」


 僕たちは、洞窟の中へと入った。

 洞窟に入り、少し行くと道が二つに分かれている。

「じゃあな、蓮、依」

「ああ、羽矢」

 僕と蓮は、迷う事なく右へと進み、羽矢さんは左へと進んだ。


 あの山に登った時、頂上に辿り着く道は二つに分かれていた。右へと進もうとした蓮。それを止めようとした僕は、滑落した。

 蓮は、気づいたからこそ、右に進もうとしたのかもしれない。


『俺が進もうとした道は端境。神域と冥府を分ける空間領域だ。あの先へと進めば神域の先に冥府がある』

 神域の先に冥府がある……。

 神域の……先。

 高宮の神社は、呪いの神社と呼ばれる、夜だけの神の場所、常夜。それは神域でもあり、常夜の中には黄泉があると言われている。

 そしてその黄泉は、冥府に繋げられていた。


「……蓮。一つ……聞いてもいいですか」

「お前が俺を止めなかったら、お前が落ちる事がなかったら、俺はその道を進んだかって事か?」

 暗い洞窟の中を進みながら蓮は、そう僕に言った。

「はい」

 洞窟の出口が見えてくると蓮は、僕の背中に手を回し、同時に出ようと伝えた。


「そうだな……」

 蓮は、問いの答えを口にし始めながら、僕と同時に洞窟から出た。


「進んだよ、依」

「……そう……ですか」

 蓮の言葉に少し寂しさを感じたが、蓮が決めた事を僕が止めていい訳がない。

 そんな僕の様子に気づかないはずもなく、クスリと笑う蓮は、強い力で僕を引き寄せると、背後から僕を抱き締めた。

「蓮……?」

 背後から抱き締められている僕に、蓮の表情は見えなかったが、僕より背の高い蓮の声が僕へと注がれた。


「俺が何処に進もうと、お前はついて来ると……信じていたからな。そして……」

 蓮の右手が動くと、前方を指差した。

「お前には絶対に渡さない……」


 翳った月が顔を出し、その姿を浮かび上がらせた。


「高宮 右京」

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