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処の境界  作者: 成橋 阿樹
第二章 道と界
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第8話 呪殺

 住職の言葉に立ち上がった羽矢さんは、本堂を後にする。

 僕も蓮は、羽矢さんの後を追った。

「羽矢」

 足を進めながら、蓮は羽矢さんを呼んだ。

 羽矢さんの歩く速度が速かったからだろう。羽矢さんが抱えた怒りも責任も、とても大きなものだ。

 だからこそ、心配も大きくなる。

「心配は無用だ、蓮。お前も分かっている通り、俺にも分かっている。だけどさ……思うよ……」

「羽矢……」

 苦笑しながら羽矢さんは言う。

「感情に境界を持つ方が……馬鹿なのかってな……」

「……それは……俺もそう思う事はないとは言えないが……それでも……」

「……ああ」


 蓮と羽矢さんの言葉が同じに重なった。


「「侵してはならない境界があるんだよ」」


 向かうところは決まっていた。

 あの呪いの神社だ。

 考えてみれば住職は、僕たちが戻って来るのを待っていたのだろう。

 時を見計らうような言葉だと気づいた。


 時は丑の刻。


 あれ程の数の人形(ひとかた)だ。

 あの神社に怨念が集まるのも、怨念を叶える神社だからこそであり、そこに足を踏み入れる者は当然、呪殺を企んでいる。

 呪殺が叶ったとして、呪殺した側の者の怨念は消えたとしても、呪殺された側の者は怨念を抱える。連鎖が続くという事だ。


 鳥居を抜け、中へと入る。

 参道の灯籠には明かりが灯り、手水舎には水が流れていた。

 この神社は本当に、怨念を抱えた者たちを迎え入れているのだろうか。

 そんな疑問が浮かぶのも、人を呪い殺そうと死を望み、その思いを神に託す……それ自体がおかしな事だ。

 そもそも神道は、死を穢れとしている。だから神社内に墓はない。

 だが、この神社はまるで死を呼び込んでいるようだ。


 神木を前に足を止めるが、釘を打ち込む音は聞こえなかった。

 蓮が神木へと近づく。

 その瞬間。

 バリッと音を立てて、神木の幹が口を開けると、無数の人形が飛び出して来た。

「羽矢っ! 狩れ!」

「任せろ!」

 羽矢さんの手に握られた大鎌が大きく振られると、人形を狩り取っていく。

 勢いをなくした人形が、ボトボトと地に落ちていくが、羽矢さんの大鎌に青白い光を纏っていた。

 羽矢さんが指を弾くと、大蛇の形を作った使い魔が現れ、大きく口を開ける。

 羽矢さんが再度、大鎌を振ると、大鎌に宿った青白い光が使い魔に飲み込まれた。

 使い魔は光を飲み込むと身を捻り、神木の周りをぐるりと囲んだ。


「返して貰うぞ」


 羽矢さんはそう言うと、数珠を握り誦経を始めた。

 数秒(たが)わずに、神木から釘を打ち込む音が響き出した。

 互いの力が押し合うようだった。

 口を開けた神木の幹から、赤黒い闇を吐き出してくる。

 空間を広げようと吐き出される闇は、広げる事が出来ずに幹の中へと押し戻されていった。


「行くぞ」

 羽矢さんの言葉に、頷く僕と蓮。

 先に羽矢さんが幹の中に飛び込んだ。

「依」

「はい」

 蓮に手を取られて、僕たちも幹の中へと入った。

 坂を下り、先行く羽矢さんを追う。


 ……この感覚……似ている。

 坂を下り終えた時に感じた、熱気と寒気が中和されたような生温い感覚。

 そして、水の音がする。


「蓮、依」

 羽矢さんの呼び声に、羽矢さんの元へと向かった。

 羽矢さんの目線を追うと、地から水が湧き上がっているのが見えた。


 ……泉だ。


 じゃあ……さっきの坂は……。

 僕は、来た方向を振り向いた。

 蓮の声に、僕は泉へと視線を戻した。


黄泉比良坂(よもつひらさか)……生者と死者を分ける境界……ここは黄泉(よみ)だ」

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