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処の境界  作者: 成橋 阿樹
第二章 道と界
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第5話 境界

 羽矢さんは、高宮を押さえ込み続ける蓮の元へと歩を進めた。

 僕は、羽矢さんの少し後ろをついて行く。

 蓮に押さえ込まれたままの高宮だが、蓮の問いに答える事なく、笑みさえ浮かべながら蓮をじっと見ていた。


「蓮」

 羽矢さんが蓮に声を掛けるが、蓮は手を緩める事なく、高宮を睨み続ける。

「答えろよ……高宮っ……!」

 蓮が声を荒げたと同時に、ブワッと風が地から噴き上がった。

 地に刻まれるようにも描かれた円が、光を放ってバチバチと弾けさせた。

 その衝撃は高宮に伝わり、高宮は顔を歪めると、打撃の大きさに短い呼吸を繰り返していた。

「蓮!」

 羽矢さんは、蓮を落ち着かせようと蓮に近づくが、蓮の怒りは(おさ)まらず、羽矢さんにまで衝撃を与えた。

「蓮……! 羽矢さんっ……!」

 それでも羽矢さんは、蓮の肩を掴んだ手を離す事はなかった。

「依……大丈夫だ……蓮、それ以上はやめておけ。聞きたい事も聞けなくなるぞ。それに……俺はお前に罪を作らせたくはない」

「……分かっている。その境界を越えるつもりはない」

 ……蓮……羽矢さん……。

 蓮の手の力が少し緩んだ。

 それでも高宮から手を離す事はなかったが、羽矢さんに衝撃を与えてしまった事を悔いているようだった。

 蓮の手が震えている。

 蓮は、高宮に視線を向けたまま、ゆっくりと言葉を吐き出した。


「……何を企んでいるかって分かっていても……事が大きく広がらなければ罪だと問えない……事が起きてからじゃ……遅いのにな。それも……目に見えないものを動かして……それを力に襲撃を掛けてくる。誰が気づくんだ……? 目に見えないものなんだぞ……呪いだ、祟りだと、それを祓う為に鎮魂すれば済む事なのか……? 閻王だって……逃げた魂を捕まえて差し出せば、裁く事も出来るだろう。だが……こいつは閻王だって裁く事は出来ない……例え死んでも、だ。こいつは道が違うんだからな……死んだら死んだで神の道だろ……」

 蓮の言葉に羽矢さんが答える。

「神の道だって、邪神や鬼神を作る為にある訳じゃない」


 羽矢さんのはっきりとした声に、蓮は羽矢さんを振り向いた。


「だから俺は、お前に神の道を行けと言ったんだ。蓮……お前なら出来るんじゃないのか」

「羽矢……」

「その境界を作ればいいだろ、蓮」

 羽矢さんの思いを受け止める蓮は、頷きを見せると高宮から手を離した。

 その瞬間に、高宮の手が蓮へと向いた。


「蓮……!」


 蓮の名を叫んだ僕の声の後には、僕の名を呼ぶ蓮と羽矢さんの声が響いた。


 高宮が蓮に向けた手。蓮を押し退けて、その手を体で受け止める。


 高宮の手は僕の体を突き抜けた。

 仰向けになったままの高宮の体を染めるように、僕の血が落ちていく。

 僕は、高宮の腕を掴んだ。

「……残念ですが……あなたには掴めません」

 そう言いながら僕は、高宮の手を引き抜いた。

「何処にあるんですか……だってあなたはここにはいないでしょう……?」


 手を引く抜くと、高宮の姿が薄れていく。


「あなたの正体は、何処にあるんですか」


 引き抜いて掴んだ僕の手には、感触はもうなかった。

 高宮の姿は消えてしまったが、言葉を置いていく声だけが残った。


「闇など存在しない……そこに光がないだけ……では、光など差す事もない場所ならば、その闇は元々そこに存在しているものだと証明出来る事でしょう」

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