表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
処の境界  作者: 成橋 阿樹
第一章 神と仏
29/182

第28話 廃仏

「蓮……もう一つだけ、聞いていいか」

「なんだ」

「お前たちの話を聞く限り、頂上まで登っていないようだが、それは必要なかったのか。その話はしてなかったよな」

 羽矢さんの言う通りだ。

 だけど、僕が口を開くのは余計な事ではないかと、口を噤んだ。


『……もう……登らないのですか?』

『必要か?』


 当主様からは、頂上にある依代を確認する事も目的の一つと言われていた。

 だけど山から戻った僕たちに、当主様は何も聞かなかった。ただ、僕たちが伝えた言葉だけに頷きを見せただけだった。

 きっと当主様には、僕たちがあの山で何を見たのか、何が起こったのか……いや……そうじゃない。

 当主様は、あの山に僕たちを行かせる事自体が重要だったんだ。


「……子供の頃に、行っているんだ。あの山に……二度、連れられて行っている」

「総代にか」

「ああ」

 蓮……やっぱり……覚えがあったんだ。

「あの頃は、あの山はあんなに険しい山じゃなかった。ガキの俺でも登れたくらいだからな……」

 もの悲しげにな口調に、僕は蓮に目線を向けた。

 蓮の手が、そっと重ねていた手の中から動くと、僕の頬に触れた。

 そして、蓮は話を続けた。


「その頃から神域であった事には変わりはない。だが、登拝出来る道があり、然程大きくはなかったが、堂も社も幾つかあったんだ。登拝道に行く前には参拝道があり、そこには神木が立ち(そび)えていた。神木を過ぎて門を抜けると神社があった。鳥居じゃなくて、門だったんだよ。それが何故なのか理解出来るようにも、その神社には、仏の像が置かれていたんだ。俺のところだって、神仏混淆を残しているとは言っても、神社に仏の像を置いてはいない。印象的だった……だが、あの山があの時に行った場所だったと、あの山を登った時には気づいていなかった。あまりにも変わっていたしな……」


廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)されたからだよ」

「羽矢……お前、初めから分かっていたのか……」

「……まあな。廃仏毀釈で、仏教、仏像、寺院までも廃されたんだ。神仏分離は、神道を推し進めるものでもあったからな……神社も寺院も境界なくあるあの山が的になったんだ。神社と名をつけていても、神殿造りではなく、堂塔だったんだろう。だから神社としても残す事は出来なかった。神社なら神殿造りにしなければならなくなり、神木も神社に移す事になったはずだ」

「廃仏毀釈後に行った時には、神木と像はなかったが、まだ堂も社も幾つかは残っていたんだ」

「……そうか。あの山に神仏混淆の名残りがあるのは、姿はなくとも神や仏がいるって事なんだろう」

「ああ……そうだな……なあ、羽矢。頂上に依代はあったのか?」

「蓮……あの山の頂上には、依代はなかった。ただ……見て欲しかったんだと思うよ。その景色が、お前の目にどう映るのかをな……その時に見た景色と重ね合わせて、お前がどう感じるのかを。総代が神仏混淆を残す事が出来ているのも、総代がどれ程の力を注いだか分かるよ。今はお前のところくらいだろ、そういう場所は」

「……泣いていたんだ」

「泣いていた? 誰が?」


 僕の頬に触れる蓮の手の温度を感じながら、その言葉を胸に留めるように聞いていた。


「依が。そこにいたのが……依なんだ」



『おいで……依。俺は……何よりも、誰よりもお前がいい』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ