表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
処の境界  作者: 成橋 阿樹
第一章 神と仏
20/182

第19話 閻王

 冥府の門が開かれた。

「依」

 羽矢さんの手が僕に差し伸べられる。

 僕は、蓮を振り向いた。蓮は、静かに頷きを見せる。

 僕の手が羽矢さんの衣の袖を掴むと、羽矢さんは僕を導くように歩を進め出した。

 僕と羽矢さんの後ろを蓮が歩く。

 暗い中でも道が見えているように、羽矢さんは躊躇する事なく足を進める。


 地蔵菩薩の光明が闇を晴らす。

 その場所まで辿り着くと、羽矢さんは一度、深呼吸をした。

「今日はこの先を行く。今度は扉を開ける」

 扉……。

 五七日(いつなのか)……閻王の裁きの時……。

 その場所へと行くんだ……。

 僕は、小さくも息を飲んだ。

 羽矢さんの手がスッと動くと、光明の中から赤黒い空間が見えた。

 僕たちは、その中へと入って行く。

 入った瞬間に感じる、重苦しい空気感が、体を圧迫して来るようだった。

 それは、目に飛び込んだものの大きさがあまりにも大きくて、威圧感を与えたからだった。


 ……閻王。


 羽矢さんの寺院の堂に置かれている閻王の像の数倍の大きな姿……だがその表情は像と同じだ。

 動かさずとも、周り全てが見えるというような大きな目は、睨みを効かせている。

 その目がジロリと羽矢さんに向いた。

「……藤兼か。下界では経が唱えられているようだが、その法力も、心なき者には届く事もあるまい。如何に善を積もうとて、我が鏡は全てを知っている」

「それは承知の事……その裁き、見届けさせて頂くが、よろしいか」

 羽矢さんの堂々とした振る舞いで、冥府での存在の大きさを知る。

「構わん。藤兼、お前のところからはここまで迷わずに来るが、何処ぞの導きであろう、河原(かわら)で消える者がいる。我にせよ、河原を渡すべきでない者を渡しはせぬが、手を下す前に消えている。何か知らぬか」

 ……河原で消える……。

 やはりそれは……抜け道と……。

「閻王……河原は奈落を含める三悪道に繋がる処。それは俺の領域外と知って訊ねられるか。それでも口にする事が可ならば、意見する」

「可とする。言ってみよ」

 閻王の言葉を聞くと、羽矢さんは一歩前に出た。


「閻王の裁きは三十五日目。それが最後の裁きというが、裁きは七日ごと……道が決まる四十九日までには(ざん)二つ。四十二日目、変成王(へんじょうおう)、四十九日目、泰山王(たいざんおう)の在は如何に。その為の地蔵菩薩では」

 羽矢さんの言葉に状況を察した。

 ……不在って事か。

 冥府と繋がっている羽矢さんなら、確かに気づく事が出来るだろう。

「我が言わずとも事を知るのは、下界での動きが何かあると気づいての事か。やはり藤兼……特にお前はこの場に相応しい。お前の後ろにいる者……お前の一存で我が前に来るとは、我との関わりを持たせるとの事か」

「関わり……」

 閻王の言葉を拾う羽矢さん。その言葉を呟いた事に、閻王の目が動く。

 羽矢さんは、ふっと静かに笑うと、閻王を真っ直ぐに見た。


「閻王……冥府の番人の名において、境界の隙間を見逃す訳にはいかない。それが務めとあらば、関わりは必然」


 閻王は、羽矢さんを縛りつけるようにもじっと見続けていた。

 羽矢さんは羽矢さんで、閻王の目線を受けたまま、動かなかった。

 そんな堂々とした態度の羽矢さんに、閻王の口元が僅かに緩む。

 そして閻王は、僕たちに視線を向けた後、こう言った。


「よかろう。可とする」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ