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処の境界  作者: 成橋 阿樹
エピローグ
182/182

一処に

 手水舎から流れる水の音が、心地よく耳に流れ込む。

 僕は……今。

 あるべきものがあるべき処となっている事を、目にしている。

 ふと、羽矢さんと蓮の会話を思い出した。


『ここってさ……権現造りなんだよな』

『まあ……霊廟建築といった訳だな。それが権現造りで建てられたんだ』

 霊廟……か……。

 河原に集まったあの魂は、高宮の父親、来生の魂までをも飲み込んで、怨念に変えてしまったのだろう。

 怨念を叶える呪いの神社と……そう変えてしまったように。

 怨念が籠っていた人形は、この神社を飲み込んでしまったかのように、本来の姿を掻き消してしまっていたのだから。だが今は、神木にさえ打ち付けられていた人形(ひとかた)は、一つもなくなっていた。


 大きく膨らみ続けた怨念に、調伏は確かに必要な事だっただろう。

 人形が消える事なく、増え続けていたのも頷ける話だと理解出来た。

 調伏し、縛り付けたままでは、いずれまたそれが怨みとなって、怨念が現れる。回向が解縛したのは、繰り返し膨らむ怨念を消す為だった。呪縛なしの調伏という事だ。

 呪縛なしの調伏には、慈悲しかない……その慈悲が怨念を消し去る。

 神祇伯にしても、解縛の時期を待っての事だっただろう。

 きっとそれが……神祇伯にとって結願を意味していたんだと、そう思った。


 神仏分離が行われなければ、廃寺に追い込まれる事も、廃社になる事もなかったのかもしれない。

 神と仏の境界が曖昧である事に、下界に於いて不都合であった事は、力の傾き方だった。

 公平とは言い難い、力の傾き方に歯止めを掛けるには、不可侵となり()る、単一の存在が不可欠であった事だろう。

 神は多数いても構わない、だが、この上ない神はたった一つである事。

 だからこそ、国を統治するにあたっての国主の存在は、大きなものでならなければならなかった……。

 それは、縦の系列によって、成し遂げられるもの。

 それは神の系列、そこに至るは天孫降臨だ。


 だが、縦となるはずの系列が横になり、あるべき処を奪われたとなったなら、多少なりとも怨みはあったのかもしれない。

 そんな中でも、新たな処に身を置き、定まった中でまた、その処を奪われてしまった。

 神仏分離も神社合祀も国の令であり、当主様が国に使える身となったままでいる事に、来生は絶望さえ感じてしまったのではないだろうか。

 だけど当主様も神祇伯も、勿論、住職も。救う為に自身の決めた道を変える事なく進んでいたんだ。


 そして僕は……そこで守られていた。


 神と仏。

 たった一つ存在を見つけたのは、僕も柊も同じだった。



 流れゆく緩やかな風が、木々の葉を包み込んで、蓮を纏う。

「依」

 差し出される蓮の手を、僕は追い掛ける。

 掴んだ手の感触も、温度も、僕自身が感じ取る事が出来る事に。

 僕である事を、嬉しく思った。

 そして僕は。

 神よりも仏よりも尊き存在を、この下界で。


「帰ろう」


 見つけたんだ。

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