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処の境界  作者: 成橋 阿樹
第5章 偈と詞
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第28話 解除

「回向……俺が祓ってやるよ……お前の罪」

 淡々とした口調。その表情には、何を思っているのか、感情を見て取る事は出来なかった。

 ……蓮……。


 蓮の言葉に回向は、硬直したようにも動きを止めた。蓮と目線を合わせてはいるが、瞬きをする事もなく、だが、驚いているというより、その後の蓮の言葉を待っているようだった。

 向けられる目から察する事が出来る回向の思いに、蓮の言葉が重ねられる。


「底根の界の主宰……底根の界とは黄泉の事だ。冥府と黄泉が繋げられ、黄泉には魂が込められた人形があった。お前……必要な魂がないと、使える魂は決まっていると、霊山にあった魂を解放したよな。わざわざ俺たちの目の前で、だ。初めから解放するつもりなら、見せつけなくても済む事だっただろう」

 蓮は、回向の側へと近づく。

「あったんだよな? あの魂の中に、高宮 来生の魂が」

「紫条さん……!」

 回向へと迫る蓮を、高宮が止める。

 回向の思いは察する事が出来るが、蓮の表情からは感情が読み取れない事に、不安になったのだろう。

 責めるつもりなのか、納得を示すのか、蓮の表情に目を見張る。

 蓮は、高宮の前で足を止め、横目で高宮を見ると高宮に言った。


「違わねえんだよ」


 はっきりと告げられた蓮の言葉に高宮は、ハッとした表情を見せた。

 蓮は、歩を進め、回向の正面に立つと言った。


「呪殺を望んだ者同士が、その願いを叶える為に賽銭箱に金を積む……」


 そう口にした後の蓮の表情に、感情が表れる。

 ふっと笑みを漏らして、回向を見る蓮。

 蓮のその様子に、回向の表情も少し和らいだ。

 蓮は、回向の表情を見ながら、こう続けた。


「神の意向とは裏腹に、手に入れた力が増長であると知る事もなく、見せつけるように奮った力は不興を買った。光は閉ざされ、闇を呼んだその贖罪……財産刑って知っているか。一度叶った呪殺は、次々と呪殺を叶え、それを祟りだと畏れを抱いた者は、呪殺の罪を祓う為に勝手に金を積んだ。いつかは自身に返る呪いだと、身を脅かされたからだ」

 蓮は、回向に目線を向けながら、羽矢さんに問う。

「羽矢……お前はどう答える?」

「はは。地獄の沙汰も金次第だと? それをこっちに当て嵌めるつもりか? 蓮。冗談だろ。俺は像法(ぞうぼう)じゃねえ」

「分かっている。そうでなければ、お前はとっくに破門だからな?」

 クスリと揶揄うように笑って言った蓮に、羽矢さんは、ははっと笑い返す。そして、遠くを見ながら蓮に答える。

「馬鹿言うな。そもそも、俺の本来の境地は、地獄じゃねえよ」

 羽矢さんは、回向に視線を向け、笑みを見せながら言葉を続けた。


「俺、『無量』なんで」


「回向……お前だって像法じゃねえだろ?」

 蓮の言葉に回向は、目を伏せ、静かに二度頷いた。

 そして、伏せた目を蓮に向けると、前を開けてくれと言うように、蓮の肩に手を置く。

 蓮は回向の隣に動き、回向は神祇伯へと目線を向けた。


「親父っ……!」

 回向の声に神祇伯が振り向く。

「垂迹の顕す戒、諸神の戒に従えば、諸仏の戒に順ずる……神聖の中に坐すのは大日孁貴神おおひるめのむちのかみ。仏の姿なら大日如来……だが、それは不可説なんだ」

 不可説……仏の功徳を言葉では説ききれない……そう伝えていた。


 回向の告白に神祇伯は、分かっていると頷き、回向にこう答えた。

「天津霊を神と言い、国津霊を祇と言う。鬼と称すは人魂。怨敵四魔を破る祭文。罪穢れを移す祓詞は、閉ざされた戸を開き……」

 神祇伯の手が河原の水を切るように、上から下へと動く。

 神祇伯の頭上を巡る龍が大きく鳴いた。


「闇を解除する」

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