表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
処の境界  作者: 成橋 阿樹
第5章 偈と詞
169/182

第25話 八色

「流石は総代……理に敵っている」

 羽矢さんはそう言って、蓮を振り向いた。

「どうした? 蓮……そんな怖い顔して」

「……まだだ」

 神祇伯が舟に乗り、河原の中へと進み始めるのを見ながら、蓮はそう言った。

「まだ? 何がだよ?」

「河臨法を使った後の事だ」

「ああ……総代が言っていたやつね……」

「邪は邪に返る……明らかになるぞ」

「何を今更……そもそも、その為だっただろ」

「今言いたいのは、その事じゃない。そんな事はもう既に分かっているだろ」

 蓮は、ふっと鼻で笑った。


「生きているのか死んでいるのか……それが明らかになるという意味だ」

「は……成程ね。それが証明ってやつか」

「……ああ。次は陰陽師の排除……そう聞けば、廃仏毀釈時のように、僧侶は還俗して立場を失う……そう思うのが普通だろ。そう思うのが普通になるのも、目にしたもの、耳にしたものが意となって表れるからだろ。似たような流れが、いつの間にか自然に意に表れる……だがそれには、当然、結び付きが必要だ」

「蓮……お前……」

「見て分かるだろ……『人形』だ」

「まあ……な」

 羽矢さんは、頷きながら回向と共に、高宮を立ち上がらせて支えた。

 河原一杯に広がった人形。

 人形に目を向けながら、蓮の言葉に耳を傾けた。


「そもそも人形は依代だ。『身代わり』そのものなんだよ。それがどうだ、人形を盾に人を呪い殺すだと? はは」

 蓮は、不快な表情を見せて、皮肉に笑った。

 そして、悔しさを吐き出す怒りの声が、そのまま表される。


「……ふざけるな」


 ……蓮……。

「紫条……」

 蓮の心情に回向は共感しているようだった。

 それは同じに『呪』を使う者だからこそ、納得出来る事なのだろう。


「自身に見立てた人形を身代わりに、(わざわい)を回避する(すべ)なんだよ。身代わりになる人形に、自身との結び付きを与える……身につけている物でもなんでも、人形を身代わりにする為に、自身を人形に触れさせるという結び付きだ。そして禍になるものを人形に移し、自身から遠避ける為に人形を投じる……撫物(なでもの)棄却という訳だ」

 蓮の言葉を聞くと、回向が口を開いた。

「それが転じて、その者に見立てた人形に接点を作り、人形に害を与えれば、その者に害が及ぶ……真逆の発想だが、それが成り立つんだよ……」

 蓮と回向の会話が少しの間続いた。

「その真逆の発想は、公平さを欠き、民間にまで及んだ。あの神社にあれ程の人形が集まったのも、その呪法が流れたからだろう」

「……紫条」

「流した……と言った方が正しいんだろう? それは呪術の効力が認められたからだろう? だが、手に入れるには、民間に流すしかねえだろ。そもそも呪術は、国の独占にあったんだからな」

 そう言って蓮は、回向へと視線を向ける。

「……言っただろ……後継を生む『(かばね)』だと」

「隠されてんだろーが、その(かばね)は。だが、氏族なら分かるよな? その氏族の優位が、その氏だけでもな」

 蓮の目線が高宮へと変わる。

 高宮は、蓮の目線に苦笑を漏らすと口を開いた。

「紫条さん……あなたには、何も隠せない……そして藤兼さん……あなたにも」

 蓮は、ちらりと高宮を見ると、答える。

「死神の目は確かだからな」

「そうですよね……あの状態で諡号も諱も見えていたと言うのですから。ですがあなた方なら……辿り着いてくれるのではと……そう思った事は確かな事です」

 高宮の言葉に、羽矢さんは答えた。


「ああ。複数の諡号、その中の一つに……『真人(まひと)』……と入っていたな。他の諡号に掻き消されるようにも、埋もれさせられていたがな」

 羽矢さんの言葉の後に、蓮が言った。


「真人……それは八色(やくさ)の姓の最上位だろ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ