第23話 勅願
「祟り神の格付け……だったな」
祟り神の格付け……。
当主様の口からその言葉が出ると、高宮は崩れるように膝をついた。
「……右京」
回向が高宮を支える。
「……大丈夫です。大丈夫……」
そう答えながらも、高宮の体は震えを見せている。
それでも、自身の体をなんとか支えようと、地についた手に力を込めている。
「どう考えようが、祓える訳……ねえだろ。祓っていい訳がない」
「……紫条さん……私は……」
高宮は、顔を伏せたまま、口を開いたが、その後の言葉は続かない。
蓮の言葉に答えるよりも、先に頭に浮かぶのは、疑問なのだろう。
高宮は、その事を口にした。
「……浄界に……送ったのではなかったのですか……藤兼さん……」
「ああ、送ったよ。間違いなく……」
そう答えると羽矢さんは、一度言葉を止め、高宮の反応を確かめるように、一呼吸置いてから言葉を続けた。
「『諱』の方では……な」
「諱……あの状態でそれが見えていたというのですか……? 藤兼さん……」
「それが見えなければ、誰だか分からねえしな。送るにしても、送りようがない」
「そうですよね……そう……ですか……」
高宮は、顔を伏せたまま、何度も頷きを見せた。
羽矢さんは、ふうっと長く息をつく。
「あまりにも名が多過ぎて、中々に難しかったがな……」
「……そうは見えませんでしたよ」
「お前が随分と先を急いでいるように見えたからな……もし俺が、あの場で狩る事も導く事も出来なかったら、お前……あの言葉通り……」
はっきりとした口調で続けられた羽矢さんの言葉に、高宮は顔を伏せたまま、苦笑した。
「殺してただろ」
『狩る方法にも領域があるんだよ。だから今度は、閻王じゃない』
確かに羽矢さんは、方法を変えた……。
『そもそも、その時は過ぎているだろ』
時は……過ぎている。
見えていたから変えたんだ。
『迎えるべき時に変える』
そう……言っていた。
高宮は、悔しさを吐き出すように、話を始めた。
「……死後に与えられるものは、神号だけではなく、諡号もありますからね……稀な事ではありますが、諡号は複数与えられました。大抵は、敬意をもって表すもの……つまりはその者への評価です。だからこそ、中には悪意ある諡号を贈られる……死してまで屈辱を与えられるという訳です。そもそも、諡号を与えたのは誰ですか……? 国でしょう?」
「諡に隠された諱……か。あの中でそれが諱だと判断出来たのは、お前が依に執着を見せたからかな……」
「……門を通すには……必要だったのです」
羽矢さんと高宮の会話が続く中、龍の形に変わった渦が、苦しみを吐き出すように大きく鳴いた。
耳を貫く程の大きな鳴き声は、無念を表す叫びに聞こえた。
「元々は氏族によって建てられた祈願所……だからか」
「だからこそ、神仏分離は、丁度いい廃社の機会になったという訳です」
高宮は、回向の手を借りながら、ゆっくりと立ち上がった。
龍が激しく動きを見せる。それは、天へと昇るように上へと向かうが、向かう事が出来ず、その境界を超えられない。
当主様の手が龍へと向く。だがそれは、押さえ付けるような手の向きではなく、迎え入れるように向いていた。
「待たせてすまなかったな……来生……」
当主様が口にした名で、羽矢さんが神殺しの罪は重いと高宮に言ったのは、止める為だったと気づいた。
「高宮 来生」
『その神社の宮司が私の父ですよ。もう……他界しましたけどね』