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処の境界  作者: 成橋 阿樹
第5章 偈と詞
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第23話 勅願

「祟り神の格付け……だったな」

 

 祟り神の格付け……。


 当主様の口からその言葉が出ると、高宮は崩れるように膝をついた。

「……右京」

 回向が高宮を支える。

「……大丈夫です。大丈夫……」

 そう答えながらも、高宮の体は震えを見せている。

 それでも、自身の体をなんとか支えようと、地についた手に力を込めている。

 

「どう考えようが、祓える訳……ねえだろ。祓っていい訳がない」

「……紫条さん……私は……」

 高宮は、顔を伏せたまま、口を開いたが、その後の言葉は続かない。

 蓮の言葉に答えるよりも、先に頭に浮かぶのは、疑問なのだろう。

 高宮は、その事を口にした。


「……浄界に……送ったのではなかったのですか……藤兼さん……」

「ああ、送ったよ。間違いなく……」

 そう答えると羽矢さんは、一度言葉を止め、高宮の反応を確かめるように、一呼吸置いてから言葉を続けた。


「『(いみな)』の方では……な」

「諱……あの状態でそれが見えていたというのですか……? 藤兼さん……」

「それが見えなければ、誰だか分からねえしな。送るにしても、送りようがない」

「そうですよね……そう……ですか……」

 高宮は、顔を伏せたまま、何度も頷きを見せた。

 羽矢さんは、ふうっと長く息をつく。

「あまりにも名が多過ぎて、中々に難しかったがな……」

「……そうは見えませんでしたよ」

「お前が随分と先を急いでいるように見えたからな……もし俺が、あの場で狩る事も導く事も出来なかったら、お前……あの言葉通り……」

 はっきりとした口調で続けられた羽矢さんの言葉に、高宮は顔を伏せたまま、苦笑した。


「殺してただろ」


『狩る方法にも領域があるんだよ。だから今度は、閻王じゃない』


 確かに羽矢さんは、方法を変えた……。

『そもそも、その時は過ぎているだろ』

 時は……過ぎている。

 見えていたから変えたんだ。


『迎えるべき時に変える』

 そう……言っていた。


 高宮は、悔しさを吐き出すように、話を始めた。

「……死後に与えられるものは、神号だけではなく、諡号(しごう)もありますからね……稀な事ではありますが、諡号は複数与えられました。大抵は、敬意をもって表すもの……つまりはその者への評価です。だからこそ、中には悪意ある諡号を贈られる……死してまで屈辱を与えられるという訳です。そもそも、諡号を与えたのは誰ですか……? 国でしょう?」

(おくりな)に隠された諱……か。あの中でそれが諱だと判断出来たのは、お前が依に執着を見せたからかな……」

「……門を通すには……必要だったのです」

 羽矢さんと高宮の会話が続く中、龍の形に変わった渦が、苦しみを吐き出すように大きく鳴いた。

 耳を貫く程の大きな鳴き声は、無念を表す叫びに聞こえた。

「元々は氏族によって建てられた祈願所……だからか」

「だからこそ、神仏分離は、丁度いい廃社の機会になったという訳です」

 高宮は、回向の手を借りながら、ゆっくりと立ち上がった。


 龍が激しく動きを見せる。それは、天へと昇るように上へと向かうが、向かう事が出来ず、その境界を超えられない。

 当主様の手が龍へと向く。だがそれは、押さえ付けるような手の向きではなく、迎え入れるように向いていた。


「待たせてすまなかったな……来生(らいしょう)……」


 当主様が口にした名で、羽矢さんが神殺しの罪は重いと高宮に言ったのは、止める為だったと気づいた。


「高宮 来生」


『その神社の宮司が私の父ですよ。もう……他界しましたけどね』

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