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処の境界  作者: 成橋 阿樹
第5章 偈と詞
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第22話 神使

 こっちが此岸……呪縛なしの調伏。

 調伏とはいえ、ただ単に押さえ付けるだけではない。

 そこに呪縛を絡めれば、因となるもの、それは怨念でもなんでも、その場から離れる事は出来なくなる。

 呪縛を絡めた者から、逃れる事は出来なくなるという事にもなる……という事なのか……。


 そう思いが浮かんだら、当主様が口にした言葉が頭の中に流れた。


『繋がるべくして繋がる……どのような手を尽くしても、離す事など出来はしない……絆……とでも言うのかな……?』

『強く深い結び付きだと……互いに互いを繋ぐもの。その本来の意味は、縛り付け、自由を奪う束縛……言わば『呪縛』だ』


 絆が……呪縛……。


 当主様の言葉を思い浮かべながら、僕は当主様へと目線を向けた。

 当主様は、蓮たちを微笑ましく見つめると、河原へと一歩、歩を進めた。

 河原をじっと見つめる当主様を間に、住職と神祇伯が並ぶ。

「瑜伽……ならば、祭文は任せるが、その前に鎮めなければならないな」

「ああ、そうだな……だが、鎮めると言うより、剥がすのではないのか、流」

 神祇伯の言葉に当主様は、静かに笑みを見せると、住職を振り向く。

「奎迦……少々荒れるが、構わないか?」

「ふふ……流。その言い(よう)……本当に少々で済むのかな?」

「私はそのつもりだが……」

 当主様の手がスッと動く。河原へと向けた指が、何かを描くように動いた。


 河原の水が、ポコポコと音を立てて気泡を作り始めた。

「これが(まこと)ならば……」

 当主様は一度、言葉を止め、羽矢さんに目線を向けると、返答を待った。

「無論、問題なく」

 羽矢さんがそう答えると、当主様は深く頷きを見せ、また河原へと目線を戻し、言葉を続けた。


「私の手に負えるかな?」


 そう言いながらも、クスリと笑みを漏らす当主様。

 気泡が次第に大きくなり、気泡が弾ける音も大きくなってくる。


 当主様の手が空を切った。

 同時にボンッと破裂するような大きな音と共に、天へと向かうように水が噴き上がった。

 ……これって……。

 似たような光景を、僕は一度、目にしている。

 それは……黄泉だ。


 あの時、泉から噴き上がった水が、雫を作り、天に広がった。

 そしてそれは、人形と変わり、その人形の中に魂があった。

 河原と泉が繋げられたというなら、それは冥府から奪われた魂ではないかと羽矢さんは言っていた。

 だけど……そこには疑問が残っていた。


『だからといって、ここに留まらせるだけとは考え難いな』


 冥府と黄泉……。

 死者が向かうとされる処としては、同じ……。

 だが、黄泉では冥府のように審理される事はない。

 ただ……。



 噴き上がった水が渦を巻き、激しさを増してきた。

 当主様の静かに流れる声は、水音に掻き消される事なく、はっきりと聞こえる。

「神仏混淆……葬送は仏式、神仏分離で神として祀られる。与えられた仏教神号を廃し、天神地祇と結びつく……神社合祀でその名も消え、果たしてどちらに向かえばよいものか……膨らむ怨念、罪穢れを押し流す、底根(そこね)の界の主宰は、何を与えたか。与える事が出来たものはただ一つ、神の格付け……」

 当主様は、ゆっくりと瞬きをする。

 強く開かれた当主様の目。同時に、渦を巻く水を切るように、羽矢さんの使い魔が飛び込んだが、勢いを増した水流に飲み込まれるように混ざった。

 ……羽矢さんの使い魔が……。


 羽矢さんの使い魔を飲み込んだ渦は、更に大きく噴き上がり、龍の形を作った。

 ゴゴゴと重く響く水音に、言葉が混じる。

「……くい……にくい……憎い……憎い……」

 この声……あの時の邪神。だけど……羽矢さんは浄界へ送ったのでは……。

 羽矢さんへと目線を向ける。僕の目線に気づく羽矢さんは、今に分かると、小さく二度、頷きを見せた。


「祟り神の格付けだったな……」


 続けられた当主様の言葉に、高宮が愕然としたように膝をついた。

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