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処の境界  作者: 成橋 阿樹
第5章 偈と詞
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第17話 七巡

「審理に影響が及ばぬよう、私が担いましょうか?」


 僕は驚くばかりだったが、住職は誰よりも閻王に近しい存在だと理解出来ている。

 そもそもが冥府の番人なのだから、それが出来ても不思議はない。

 閻王は、大きく溜息をつくと、鬼籍を住職に渡した。

 住職は、鬼籍に目を通し始める。そして、目を通し終わると、鬼籍をそっと閉じた。

 住職と閻王の目線が、一線に重なる。

 閻王は、住職と目線を合わせたまま、口を開いた。


「……流」

 閻王が当主様を呼ぶと、住職は閻王と共に当主様へと目線を向けた。

「我の正体を死神に託す事で、時を正したか」

 当主様は、閻王の目線に笑みを返して答える。

「巡る時は満中陰……それは七七日(なななぬか)まで……その巡りも如何様(いかよう)かと。なれども、時を戻すには無理がある……」

 当主様の言葉が続く。

「最後の裁きは今日(こんにち)までと申したいもの」

 満中陰……巡り……。七七日……。

 七七日って……四十九日の事だ。それは忌明けを意味する。

「それまでの巡りに明確であったものは、秦広王の存在。ご存知の通り、正体は不動明王……不在とあれば審理は始まりようもなく、それでも時は止まる事はない。ここで一つの相違が起き、閻王の審理前の四七日(よなぬか)、五官王の正体は普賢菩薩とされるが、それが薬師如来と、正体が(たが)う。そしてまた一つ相違が起き、七七日の審理を行う泰山王の正体が、薬師如来ではなく……」

 当主様は、住職に目線を変える。当主様と視線を合わせると、納得を示す様に互いに頷き合った。

 そして、当主様はこう続けた。


「阿弥陀如来と、正体が(たが)う。そして……」


 当主様は、隣に立つ神祇伯へと視線を変え、言葉を続けた。

「五道転輪王は、阿弥陀如来と大日如来…… つまりは一処同体と」

 神祇伯は、当主様の視線が向けられる事に、そっと目を伏せた。

 当主様は、神祇伯から目線を外し、閻王へと再度向くと、また口を開いた。

「一処同体とされた阿弥陀如来は、正体というその正体を大日如来に隠す……なれば、泰山王の正体は欠となり、つまりは……」

 当主様は、少し間を置き、今度は羽矢さんへと目を向けて言った。

 羽矢さんは、当主様の言葉に頷きを見せる。


『今一度、訊ねてよろしいか。泰山王の在は如何に』


「不在となるという訳だが、だからこそ、曖昧ともなった正体をはっきりとさせるのは、その正体が『無量』である『死神』以外に考えられない。それが冥府の番人と言われるものだと、私は思っているのだが……」

 そう言って当主様は、クスリと静かに笑みを漏らした。そしてまた、閻王へと目線を向けて言う。

「何かそこに相違がお有りかな……? 閻王」

 当主様のその言葉に、閻王が笑い出す。

「言ったであろう、藤兼は、我の持つ鏡そのものだと」

 当主様は深く頷くと、神祇伯を振り向いた。

 神祇伯は、目を伏せたまま、当主様の言葉を聞く。


「冥府自体が神仏混淆、審理を行う十王の存在によりて、本地垂迹も説かれるというもの……中でも閻王、その正体が大きく名を示す法となっている。そのお力……お借りしない訳にはいかないだろう……」

 後に続いた当主様の言葉を聞くと、神祇伯は顔を上げた。


「全ては救済の為に」

 はっきりとした閻王の声が大きく響いた。

「ならば、行け」

 住職は、その声に笑みをもって返す。


「承知」

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