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処の境界  作者: 成橋 阿樹
第5章 偈と詞
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第14話 三神

 大きく、辺りを真っ白に染める程の光が放たれたと同時に、強い風が地から吹き上げられた。

 闇の中から飛び出した無数の矢が、天に一度、留まった後、地に目掛けて再度、突き刺さった瞬間にそれは起きた。

 初めに矢が闇に突き刺さった時と同じように、大きな音を響かせて。


『放たれたものが邪であれば、その邪は、(かや)りの風を吹かせる』

 返りの風……邪は邪に返る。その悪意は、悪意を放った者に戻るという事だ。


 風に煽られ、土埃を撒き散らす中、住職の背後で守られる僕は、視界が開けるのを待った。

 住職の黒衣がバサバサと音を立てて翻る。黒衣が翻る事で、土埃から守られる僕は、僅かでも目を開けている事が出来た。


 ぼんやりと土埃の中に姿が見える。

 まだ治まらない風の中、長い髪が揺れているのが捉えられた。


 ……当主様。


 辺りを染める程の、真っ白い光の中に、うっすらと見える姿は、当主様だと分かった。

 そして、当主様の傍に檜扇が見える。その檜扇で、神祇伯が側にいると直ぐに気づいた。

 当主様と神祇伯の二人の姿が、住職の方へとゆっくりと近づいて来る。

 視界はまだ、うっすらと辺りを映すだけで、はっきりと捉えられてはいない。

 吹く風も、多少、勢いは治まったが、衣を翻す程の力をまだ保ち続けている。


 住職は、二人がこちらに来るのを待っているようだった。

 住職のところへと向かいながら、当主様の声が流れる。

「久しい時を迎えたものだ」

 当主様のその言葉に、共に歩む神祇伯が言葉を返した。

「ふふ……全くだ。同じ地を踏む事になるとはな」

 その二人の会話に住職が加わる。

「それが因と縁というものでは?」

 住職は、そう言って、クスリと笑った。

 当主様と神祇伯の、はははと笑う声が重なる。

 砂利を踏む足音が近づく中、当主様が住職へと言葉を返す。

「なればこそ、(くう)をも意味するその法を説くのは、お前の領域で行なって貰いたいものだな」

 当主様の言葉に住職は、ふふっと笑うと答える。

「私の領域とはまた……どの処を言っているのかな?」

「馬鹿を言うな。決まっているだろう?」

 当主様と住職のこのやりとり……まるで蓮と羽矢さんみたいだ。

「お前のその姿が、最早、その答えを出しているのではないのか?」

 当主様の言葉に、神祇伯が頷く。

 そして、神祇伯は、揶揄うようにも住職に言った。

 皮肉めいた口調で言う神祇伯。それは回向を重ねさせる。

「まあ……お前の説法は聞き飽きているがな?」

「ふふ……私の説法如きで退屈だと言うのなら、再度、戒を踏む必要があるのでは?」

「はは。それも悪くはない」

 そう答えた神祇伯に、当主様は呆れたように口を挟んだ。

「心にもない事を言うな。もう領域に入るのだぞ」

「ああ、そうだな……領域にはその領域に従うとしよう」



 視界が段々と開けてくる。

 二人の足音が目前で止まると同時に、当主様は言った。

「では……扉を開けて頂こうかな」

 当主様と神祇伯の姿が、はっきりと捉えられると同時に、当主様と神祇伯の声が、力強い響きを持って揃う。

 その言葉を受ける住職は、クスリと静かに笑みを漏らした。


「「死神」」


 僕の目に映し出される三人の姿は。

 三人で一つの柱となる、神のようにも見えた。

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