第14話 三神
大きく、辺りを真っ白に染める程の光が放たれたと同時に、強い風が地から吹き上げられた。
闇の中から飛び出した無数の矢が、天に一度、留まった後、地に目掛けて再度、突き刺さった瞬間にそれは起きた。
初めに矢が闇に突き刺さった時と同じように、大きな音を響かせて。
『放たれたものが邪であれば、その邪は、返りの風を吹かせる』
返りの風……邪は邪に返る。その悪意は、悪意を放った者に戻るという事だ。
風に煽られ、土埃を撒き散らす中、住職の背後で守られる僕は、視界が開けるのを待った。
住職の黒衣がバサバサと音を立てて翻る。黒衣が翻る事で、土埃から守られる僕は、僅かでも目を開けている事が出来た。
ぼんやりと土埃の中に姿が見える。
まだ治まらない風の中、長い髪が揺れているのが捉えられた。
……当主様。
辺りを染める程の、真っ白い光の中に、うっすらと見える姿は、当主様だと分かった。
そして、当主様の傍に檜扇が見える。その檜扇で、神祇伯が側にいると直ぐに気づいた。
当主様と神祇伯の二人の姿が、住職の方へとゆっくりと近づいて来る。
視界はまだ、うっすらと辺りを映すだけで、はっきりと捉えられてはいない。
吹く風も、多少、勢いは治まったが、衣を翻す程の力をまだ保ち続けている。
住職は、二人がこちらに来るのを待っているようだった。
住職のところへと向かいながら、当主様の声が流れる。
「久しい時を迎えたものだ」
当主様のその言葉に、共に歩む神祇伯が言葉を返した。
「ふふ……全くだ。同じ地を踏む事になるとはな」
その二人の会話に住職が加わる。
「それが因と縁というものでは?」
住職は、そう言って、クスリと笑った。
当主様と神祇伯の、はははと笑う声が重なる。
砂利を踏む足音が近づく中、当主様が住職へと言葉を返す。
「なればこそ、空をも意味するその法を説くのは、お前の領域で行なって貰いたいものだな」
当主様の言葉に住職は、ふふっと笑うと答える。
「私の領域とはまた……どの処を言っているのかな?」
「馬鹿を言うな。決まっているだろう?」
当主様と住職のこのやりとり……まるで蓮と羽矢さんみたいだ。
「お前のその姿が、最早、その答えを出しているのではないのか?」
当主様の言葉に、神祇伯が頷く。
そして、神祇伯は、揶揄うようにも住職に言った。
皮肉めいた口調で言う神祇伯。それは回向を重ねさせる。
「まあ……お前の説法は聞き飽きているがな?」
「ふふ……私の説法如きで退屈だと言うのなら、再度、戒を踏む必要があるのでは?」
「はは。それも悪くはない」
そう答えた神祇伯に、当主様は呆れたように口を挟んだ。
「心にもない事を言うな。もう領域に入るのだぞ」
「ああ、そうだな……領域にはその領域に従うとしよう」
視界が段々と開けてくる。
二人の足音が目前で止まると同時に、当主様は言った。
「では……扉を開けて頂こうかな」
当主様と神祇伯の姿が、はっきりと捉えられると同時に、当主様と神祇伯の声が、力強い響きを持って揃う。
その言葉を受ける住職は、クスリと静かに笑みを漏らした。
「「死神」」
僕の目に映し出される三人の姿は。
三人で一つの柱となる、神のようにも見えた。