第11話 乖離
『廃仏毀釈を行ったのは、神職者だけじゃない。檀信徒もだ』
神職者だけではなく、檀信徒も……。
あの神社にしたって、人形の数が物語っていた。
この闇は怨念そのものであり、その怨念が呪力となって膨らんでいる。
廃仏毀釈を行った神職者に同調して、檀信徒が協力体制を結んでいたなら、行動を共にした檀信徒は、氏子になったとしても不思議はない。
ましてや、仏の像を破壊するに至って、祟りを恐れていたくらいだ、神の加護を願っても不思議はない。
これが……眷属だという意味なのか……。
それならば、神職者に従った氏子は、神の力になる為の命を注いだと言えるのではないだろうか。
闇の中に見える、無数の目。高宮と対峙した時にも、同じものを目にしていた。
眷属であるならば、主となる神に従うはず。
主となる神職者に従うと言い換えられるのだろう。
確かに神職者なら、その術がどのように作用するか分かっている。なればこそ、氏子に神の力を与え 、神にでもなれるものだと、吹き込む事も出来たのでは。
そして、神の力を使う事が出来る術も手に入れる事は出来た……。
それが呪殺に繋がった。それは互いに互いを、だ。
バラけていた闇も、結び付くと畏れを知らない……か。
『まったくだ。力を得たと思っているんだろうが、それが増長だと気づかない事に悲しくなるな』
蓮がそう言うのも当然だ。
畏敬の念を示すのは、祝詞に表されている。
神の力を願うなればこそのものなのに……。
この闇……怨念の量はかなりの量だ。
当主様たちは、重くも伸し掛かってくる闇を分散させ、怨念を抑えようとしているが、分散してもまた結び付き、大きな闇となって膨らみ続ける。
蓮と羽矢さんが、その闇へと向かい、当主様たちの向かい側へと立った。
膨らみ続ける闇は大きくなるばかりだが、蓮と羽矢さんが当主様たちの向いに立った事で、闇が間となる。
……この位置って……。
僕は目を見張った。
鳥居、楼門を抜けたところに、この社殿がある。
闇の位置は、その参道を真っ直ぐに抜けた位置だ。
そして、闇を放つ神職者たちも同じ位置にいる。
……何故、その位置に……。
蓮が知らない訳がない。
そして当主様も、神祇伯である回向の父親も、蓮と羽矢さんがそこに立った事で、闇が真ん中になっている事に理解を示しているように思えた。
蓮と羽矢さんに向けて、神祇伯が合図をするように頷きを見せた。
神祇伯に答えるように、蓮と羽矢さんも頷きを見せる。
その後、直ぐに、神祇伯が大きく拍手を打った。
その瞬間に闇が大きく広がり、空間全てを覆い尽くした。
僕の目に、誰の姿も捉えられなくなった。
真っ暗だった。
何も見えない。
その術がどのように作用するか……知らないはずはない。
神職者なら尚更だ。
呪殺を叶える呪いの神社……廃社同然となりながらも、その怨念は生き続けていた。
それは祟りだと、明らかになる事だろう。
神前へと向かったなら、その神の意向に従わなければならない。
それに反して身勝手な行いをすれば、神の目の前で非礼を働いたという事だ。
これは……。
非礼を働けば、神の怒りを買い、怒りを買えば当然、禍が降り掛かる。
それは、非礼を働いた者に対しても。
そして同時に……。
僕の鼓動が速くなる。
蓮……当主様……。
その神社の神職者にも降り掛かる、大きな……。
連帯責任だ。