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処の境界  作者: 成橋 阿樹
第5章 偈と詞
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第8話 派閥

「天孫降臨だ」

 蓮の言葉を聞きながら、その姿を目で追った。

 高宮 右京。

 衣冠姿で現れた高宮は、当主様と神祇伯に守られながら、社殿前に立った。

 その背後には聖王側と言えるのだろう、同じ氏族でもあるのか、神官らしき者たちが控えている。

 当主様が今日と決め、この処で践祚を行うと決めたのも間違えようのない事だ。

 それは、この社殿に祀られている神に基づくものでもあるだろう。


 蓮の言葉が頭の中に流れた。


『進む道は……お前が決めろ』


 これが……高宮の選んだ道。


『下界は欲界……欲するものが願いです。欲するものに善だ悪だとの判断は、一体何処にあるのでしょうか。呪殺にしても、その者が悪であるなら、その願いは善になるのではないですか? 己が募らせた思いを叶える術を持っているのなら、己がその術を使う事は公平であると言えますか? そして、その術がどのように作用しようとも、力ある者がその力を封じる事は公平でしょうか。そもそも、神の力を欲したのは国であり、何の為にその力を欲したのか……国自体が願いを乞い、その願いの術は神でしょう。それならばお望み通り、神の力を使い、神の力になる為の命を注げばいい』


 神に仕え、信じながらも、神を憎んでいる部分もあった。


『神に仏は近づけさせない……そう契りを結ぶだけの事……解脱などさせやしないと地獄の門を開くのみ。違いますか?』

 時折、寂しげにも見える表情を見せていた高宮が気になっていた。何故、そんな表情を見せるのかと。高宮自身は、そんな表情が漏れている事に気づいていなかったのかもしれないが。


 聖王の姿を見守りながら、蓮は再度その『(ことば)』を口にする。

「真言教主、大日如来。両部界会(りょうぶかいえ)諸尊聖衆(しょそんしょうじゅ)泰山府君眷属等たいざんふくんけんぞくとう、閻王、護法善神の同尊なり。瑜伽荘厳(ゆがそうごん)の壇を飾り、泰山府君法を修す」

 蓮の後には再度、羽矢さんが口にする『偈』が流れた。


法子(ほうし) 汝行大乗(にょぎょうだいじょう) 解第一義(げだいいちぎ) 是故我今(ぜこがこん) 来迎接汝(らいこうしょうにょ)

 そして……。

 思いを込めた回向の声が注がれる。


我等所修(がとうしょしゅ)……回向(えこう)


 回向の足が社殿の方へと数歩動くと同時に、その声が繰り返された。


「我等所修 回向」


 回向は社殿の方へと走り出す。

 弾けた光が金色に輝く。

 そこに現したその姿を包むように、辺りを染める。

 だけど。

 反発するように立ち昇った黒い闇が、光を押し潰そうとしていた。

 その闇は、聖王を残して社殿を飛び出した者たちから溢れ出していた。


 本心を隠して取り繕い、取り繕う事で隙を窺い、その本心を見破られれば、開き直って憎悪を露わにする。

 光と闇が、その場をどちらが制する事が出来るかと、競い合っているように見えた。

 炎のようにメラメラとした黒い闇が、光を裂くように伸びていく。

 神祇伯が聖王の前に立ち、闇に対抗するように檜扇を振った。

 風が土埃と共に舞い上がり、闇を押し退けるが、闇は消えずに襲い掛かってくる。

 当主様が弧を描くように、地に足を滑らせた。

 描かれた円が地から光を放ち、闇が弾ける。

 だが、消えたかと思った闇は、勢いを強めて光を覆う。その繰り返しだった。

 ボソボソと低い声が、多数重なって音となる。

 聖王へと呪いの詞が向けられている……そう気づく。

 その詞は一つではなく、様々な詞が混ざり合ってはいるが、同じ要素を含んだその呪は、大きな闇を作った。


「……まったく」

 羽矢さんはそう呟き、言葉を続けながら社殿の方へと向かった。

 僕と蓮も、羽矢さんと共に社殿へと戻る。

 続けられた羽矢さんの言葉に蓮は、頷いていたが鼻で笑った。


「バラけていた闇も……結びつくと畏れを知らないな」

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