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処の境界  作者: 成橋 阿樹
第5章 偈と詞
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第2話 践祚

 臨時祭。その名の通り、恒例祭祀以外で臨時に行われる祭祀だ。

 臨時で行われるだけあって、この祭祀の重要性は高い。そしてそれは、行わなければならない状況になったという事だ。



 社殿へと向かう中、羽矢さんが蓮に訊ねる。

「それにしても……臨時とは言え、随分と急だな?」

「本当にそう思って言っているか? 羽矢」

 蓮の目線が、意味を含めて羽矢さんを見た。

「ふ……成程。臨時とは言葉の上だけって事か」

「とはいえ、臨時は臨時だ」

「ふん……それをここで行う訳なんだから、総代にとっては複雑なんじゃないのか」

「行えと言われれば、やるしかねえだろ」

「立場上って事か……」

「まあな。だが……」

 蓮は、ふっと息をつくと、空を仰いだ。

 羽矢さんは、蓮へと目線を向けながら、言葉を待つ。


「『聖王(じょうおう)』の身体的状況……お前も気づいていた通り、亡くなっていたなら勿論の事だが、死期が近いとしても同じ事だ」

「行われるべくして行われるって訳ね……ただ単に、日取りを合わせていたって事か」

「……そうとも言えるな」

「なんだ? その表情では、全てに納得していない様子だな? まさか、総代に不満を持ってるとか言うなよ? お前が総代をジジイとか言うの、想像も出来ねえし、聞きたくねえからな?」

「お前と一緒にするな。そんな訳ねえだろ」

「じゃあ、なんだよ?」

「神祇伯が言っていただろ。次は陰陽師の排除だと。それなのに国の祭祀をここで行うなど……」

「それは俺も思っていた事だ。だから来たんだけどね」

「幣帛を執るのは誰だと思う?」

「その言い方では、総代ではないって事か」

「ああ。父上じゃない」

「じゃあ……それって……」

 そんな会話をしている内に社殿へと辿り着いた。

 祭祀の準備が整えられている社殿。そこに現した姿を見ながら、僕たちは足を止めた。


「神祇伯……だよな」

「神祇伯って言うんだから、当然と言えば当然だろうがな」

 蓮と羽矢さんの目線が一点で止まる。

 神祇伯……それは回向の父親、水景 瑜伽だ。


「なんにせよ、陰陽師である総代が今日と決めたなら、それは間違えようのない日取りって事だ」

「ああ」

「だったら、ここで行うのも間違えようのない処って訳だろ」

「ああ……そうだな」

 蓮は、神祇伯へと向かって、止めた歩を踏み出した。並んで僕たちも歩を進める。

 僕たちに気づいた神祇伯が、迎えるように正面を向いた。

 声が届く距離まで近づくと、僕たちは頭を下げる。

 そして、頭を上げると、神祇伯は蓮に視線を向けていた。


「子息……」

 ゆっくりと口を開く神祇伯は、蓮に問う。


「ここに揃う者たちの境界……それを見抜けるか?」

 神祇伯のその言葉に、蓮の表情が真顔に変わる。

「あんたは既に見抜いているんだろ」

「勿論だ」

「だったら……」

「出来るか出来ないかを訊いている。時がない。返答次第では配置を変える他ないからな」

「配置……?」

 訝しがる蓮の目線が社殿の中へと向いた。

 少しの間、蓮は中をじっと見つめていたが、納得したように静かに頷くと、神祇伯へと目線を戻した。

「問題ない。その為に……」

 蓮の目線が羽矢さんに向く。


「『死神』と一緒なんでね」


 蓮の言葉に羽矢さんはニヤリと笑う。

 神祇伯の目線が羽矢さんに移ると、神祇伯はふっと笑みを見せる。


「回向から聞いている。『死神』の目は確かだと」

「それは光栄な事で」

 神祇伯は、祭壇の方へと目線を変えると、意を決したようにはっきりとした口調で言った。


今日(こんにち)の臨時祭。先ずは『践祚せんそ』……滞りなく行う。頼んだぞ」

 践祚……国主の位を受け継ぐ為の儀式の事だ。

 その言葉に蓮と羽矢さんは、声を揃えて答えた。


「「無論」」

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