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処の境界  作者: 成橋 阿樹
第四章 法と呪
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第35話 呪縛

「あるべきものをあるべき処に……ですか。父上」

 蓮の言葉に当主様は、クスリと笑みを漏らした。

 意味を含めたその笑みは、蓮が漏らす笑みとそっくりだ。

「繋がるべくして繋がる……どのような手を尽くしても、離す事など出来はしない……」

「父上……?」


 当主様は、蓮に目線を向けて笑みを見せると、深呼吸をするように大きく息をつき、また空を仰いだ。

「……絆……とでも言うのかな……?」

 ポツリと呟いた当主様に、蓮は当主様をじっと見つめた。

「……父上」

 当主様は、蓮へと目線を戻すと、クスリと小さく笑う。そして、ゆっくりと口を開いた。


「強く深い結び付きだと……互いに互いを繋ぐもの。その本来の意味は、縛り付け、自由を奪う束縛……言わば『呪縛』だ」

 そう答えると当主様は、蓮と僕を交互に見た。

 当主様を見つめる僕たちに、当主様は穏やかに微笑み、僕たちに問うように言った。


「その呪縛から……逃れる(すべ)は、あるのかな……?」


 当主様のその言葉に、僕と蓮は顔を見合わせた。

 蓮は、そっと目を伏せ、口を開く。

「父上、それは……」

 蓮は、顔を上げると、笑みを見せながら当主様に答えた。


「その術を、父上があると言うのならば」


 蓮が答えた言葉に当主様は、ふふっと笑った。

「柊」

 当主様の呼び声に、柊が姿を現す。

「はい。流様。わたくしはここにおります。いつでも貴方様のお側に」

「お前はどうかな? 柊」

「わたくしは……」

 柊の表情に、うっすらと笑みが浮かぶ。

 サアッと緩やかな風が流れ、柊の長い髪がふわりと揺れる。

 木々の葉がカサカサと小さく音を立てて、パラリと落ちゆく葉。柊は、その葉をそっと手に乗せた。


「願いというものそれ自体が、全てにおいての呪縛……この手に掴み、離れる事なく、繋がっていて欲しいと焦がれる事に、失う術はないと、わたくしはお答え致しましょう」


 柊の言葉を聞くと当主様は、穏やかに微笑んだ。

「ふふ……柊。お前がないと言うのならば、ないのだろうな」

「ただそれでも……」

 柊は、言いながらゆっくりと瞬きをすると、再び開けた目に当主様を映す。

「それでも……?」

 当主様は、柊の言葉の先を促す。だが、当主様は、その言葉の先を知っていると僕は気づいていた。

 にっこりと笑みを見せるその表情が、言葉を隠している。


 柊は、言葉を止めたまま、ゆっくりと瞬きをすると、先へ、先に先にとまだ続いている社や堂へと目線を向けた。

 鳥居から楼門を抜けてくる風が、柊の長い髪を揺らし、木の葉を纏って舞うように流れていく。

 柊の目は、風に流れていく木の葉を追っている。僕たちもその様を目で追った。

 その様はまるで……。



 続けられた柊の言葉に、僕たちは柊へと目線を変えた。

「願いの善悪は、この界に於いての善悪……」

 更に続いた柊の言葉を聞く当主様は、ふっと笑みを漏らす。

 僕たちの目線は、再度、風に乗り、流れゆく木の葉へと向いた。

 ……その様はまるで。

 願いを乞う者たちの思いを運んでいるように思えた。


 柊の言葉は、高宮が口にしていた言葉と同様のものだった。


 分かっていたはずなのに、分かったと気づいた事で、その奥底にあるものが見えなくなってしまっていた。

 光が差せば闇は消える。ないものをあるとは言えない。闇には実体はない……ただそこに光がないだけ……。



『己が募らせた思いを叶える術を持っているのなら、己がその術を使う事は公平であると言えますか? そして、その術がどのように作用しようとも、力ある者がその力を封じる事は公平でしょうか』


 ……高宮 右京……あなたは……。


 光と闇……それは答えへと道を繋ぐもの……それを突きつけられたようだった。



『私をそうさせたのは……誰ですか?』

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