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処の境界  作者: 成橋 阿樹
第四章 法と呪
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第33話 祖神

 回向の反応に蓮は、クスリと笑みを漏らすと、更に先へと向かった。

 蓮は、三つ目の堂へと案内し、回向に言う。

「薬師如来だ」

「……そうか。成程」

「そして……この先には地蔵菩薩が置かれていた。まあ今は、羽矢の寺院に移してあるけどな……」

「……」

 蓮のその言葉に、回向は無言になり、そっと目を伏せた。

 

「なあ……回向」

 蓮の呼び声が、回向の顔を上げさせる。

「更にその先には不動明王が置かれている」

「紫条……ここには一体どれ程の……」

「どれ程と言われてもなあ……権現は神号な訳だから、特定の神の名とは言えないだろ。そもそもが仏教神号なんだから、本地垂迹で付会された神は」

「天津神や国津神……だから天神地祇を祭神とする……か」

 蓮の言葉の先を遮って、そう回向は答えた。

「ああ。神は仏の化身……。権現は社殿であり、その社殿によって神の姿を現す事が出来るという訳だ」

「……分かっている」

「だろうな」

 蓮は空を仰ぎ、回向はまた目を伏せる。

 少しの間、沈黙が流れた。


「『神社の数を減らす神社整理が行われて、複数の祭神も一つに合祀……合祀された結果、廃された神は祟る……そうは言っても、その姿も現せるものもなく、宿る依代さえない』」

「……紫条……お前……」

 回向は、少し驚いた顔を見せていた。そんな表情を見せる回向に、蓮はふっと笑みを漏らす。

「分かっていたのか、なんて言うなよな? 高宮がずっと言っていた事じゃねえか。そもそもがそういう事だろう、分からないはずがない。高宮もまた…… 一つの道に進んでいたというのも、それで納得が出来る。それが奴の宿命でもあり……覚悟でもあったんだろ」

「……ああ、まあ……な」

 回向は、溜息混じりにそう答えた。

 そして、一呼吸置くと、話を始める。

「廃仏毀釈に神社合祀。廃されたのは、仏だけではなく、神も同じだ。それは人神であっても同じ事……人神であるなら尚更なのかもな。呪いだ祟りだと、それを鎮める為に神と祀り上げ、調伏する為の神と結び付ける……祟りが治まれば、鎮護の神と崇められる存在となり、確固たる住処が作り上げられるだろうが、そもそもが調伏だ。祟りを起こせる程に強い怨念がそこにはあり、神力を重ねて怨念を鎮める……それが人神同士であっても……だ」

「ふん……最後に残った神が最強……ね」

 そう小さく呟いた蓮をちらりと見て、笑みを見せる回向だったが、それは苦笑だった。

「全ての目的は高位に立つ事…… 一度手に入れたその地位には、後継を生み、背負う……『(かばね)』だ」


「成程ね……氏族という訳か」

 回向の話に、蓮は納得を示す。

「ああ。それは共通の祖先を持つというもの……その祖霊は勿論、神だ」

「お前が言っていたように『神の由来までもをはっきりとさせなければならなかった』……か」

「……ああ。明確か不明確かで分別がつくからな……」

「そうか……なあ、回向……ここで明確にしたいんだが」

「なんだ?」

「天津神、国津神の子孫を指す、『神別(しんべつ)』は、その中でも『天孫』……それが高宮だろ」

「……ああ、その通りだよ。祖霊崇拝、氏神信仰……祖先を祀って神とする……」


 回向の目線が空を仰ぐ。そして、呟くような静かな声でこう答えた。


「つまりはそれが……祖神(おやがみ)だ」

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