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処の境界  作者: 成橋 阿樹
第四章 法と呪
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第32話 巡拝

「御子息。後の事はお任せ致します」

「分かりました」

「じゃあ、蓮……後はよろしくな」

「ああ。羽矢、安心して禅に励んでくれ」

「はは。お前に言われるまでもない」

「それなら俺も安心してこの場を後に出来るよ、じゃあまたな、羽矢」

「ああ」


 僕たちは本堂を後にした。


 寺院を出ると、蓮は回向に言う。

「戻るんだろ? 神社に」

「まあ……な」

「なんだよ? 歯切れの悪い返事だな」

「そう……だな」

「待ってるだろ。行ってやれよ」

「……分かっている」

 回向は、思い悩むものがまだ残っているようだった。

 蓮の言葉に答えながらも、どうするかを考えているのが分かる。

 その思いは、なんとなく気づいていた。住職も羽矢さんも、回向の事が気掛かりだったのだろう、だから蓮に託したんだ。

 それは、蓮ならば……蓮だから出来る事だ。

「回向……お前、今更ながら道が違うとか言うなよな」

 蓮のその言葉に、回向は苦笑した。図星だったのだろう。


「……分からないんだ」

 苦笑を漏らした後、回向は俯き、そう小さく呟いた。

 そして、顔を上げ、空を仰ぐと言葉を続けた。

「どう残したらいいのか……分からない」

「お前らしくないな。それは、はっきりしていた事じゃなかったのか」

「親父は……それでも神職者でいる事だろう。俺とは違う」

「それが?」

 あっさりと答える蓮。

「……紫条……」

 回向は、蓮を振り向く。

「それがなんだ?」

「なんだって……なんだよ……」

 回向は戸惑っているようだった。そんな回向に蓮は、言葉を重ねる。

「お前が分離させてどうするんだよ?」

「……明らかな事だろ……そう道を選んだと言うなら……そうなるだろ……」

「明らか、ねえ……? じゃあ、着いて来いよ」

「おい……紫条」

 蓮は、回向を追い越して先を行く。

「依、行こう」

「はい」

「待てよ…… 一体、何処に……」

「着いて来いって言っているんだ、いいから黙って着いて来い」

 歩く速度を速める蓮。

 回向は、困惑した表情を見せていたが、蓮の後を追った。



「……紫条」

 回向の呼び声と同時に、鳥居の前で立ち止まった蓮は、回向を振り向く。

「『神社』だ」

「そんな事……見て分かる」

「ふうん……?」

「なんだよ?」

 不満そうな顔を見せる回向に構わず、蓮は鳥居をくぐり、先を行く。

 鳥居を抜けると神木があり、そして前方には楼門がある。それは仁王像が置かれている仁王門と呼ばれるものだ。

「ここって……」

 ハッとしたような回向の声に、蓮は笑みを僕へと向けた。僕は、笑みを返すと頷いた。そして、僕と蓮は、回向を導くように先へと進んだ。


 楼門を抜けると、神社があり、神社を抜けると堂がある。先ずは一つ目の神社に一つ目の堂だ。

 堂の中を見る回向の声が流れる。

「……大日如来……」

「ああ、そうだ」

 蓮は返事をしながら、更に先へと行く。

「おい……紫条」

「いいからそのまま着いて来い」

 蓮が回向を案内する先には、二つ目の神社がある。そして、二つ目の堂で足を止める。

 そして堂を見る回向は、また言葉を漏らした。


「……阿弥陀如来……か。紫条……」

「そういう事だ」

 蓮は、そう答えてニヤリと笑った。


 ここは……神仏混淆を残す、当主様と蓮が守っている『神社』だ。


「 俺のところが神仏混淆を残しているとは言っても、回向、お前、その目で見た事はなかっただろ?」

「……ああ、まあな……」

「だが、理解するのは、お前なら簡単じゃないのか」

 回向は、目に焼き付けるようにも、じっと見つめていた。

 回向が蓮の言葉に答えるまで間があいたが、蓮は回向が口を開くのを待っていた。


 真剣な表情で神社と堂を見続ける回向だったが、ふっと笑みを漏らすと、蓮を振り向いて答えた。


「そうだよな……権現は神号。神って訳だ」


「ああ、そうだ。だから神の迹を垂れるものが、目に見えていたっていいだろう?」

 笑みを見せながら言った蓮の言葉に、回向の表情が和らぐ。


「ああ……そうだな。権現にも本地仏があるんだからな」

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