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処の境界  作者: 成橋 阿樹
第四章 法と呪
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第30話 脇侍

 羽矢さんに与えられた化身……。

 それが閻王なのではと思った瞬間に、住職へと目線が動いた。

 穏やかな表情で説法を続ける住職だが、死神の異名を持っているのは事実だ。


 ……与えているという事は……当然、与えられる立場にいるという事で……。


『地蔵菩薩がここに置かれる事になるのも、道理ではあるのですよ』

『それは……分かっています。こちらには『化身』がありますから』


 蓮と住職の会話を思い出す僕は、隣に座っている蓮をちらりと見た。

 ……本当はどうなのか、蓮は知っているのかな……。

「どうした? 依」

「……いえ」

 僕の目線に気づいた蓮。クスリと笑うその目が、僕が何を思っているかを分かっているようだった。

「気になるのは、奎迦住職の事か?」

「え……あの……いえ……その……」


『堂々とした様子で羽矢は、閻王の前にいたんです……私の口添えなど、羽矢には必要ありませんでした』

 それって……住職の言葉次第で閻王の裁量も変わるという事……。


 頭の中では住職が言っていた言葉が巡っているのに、聞いていいものなのかと僕は俯き、口籠もる。

『藤兼家のもう一つの顔……それは当然『秘密』を意味します』

 秘密と言っていただけに……奥深くも聞く事は……。

『それは……承知していますが……』

 ああそうか……やはり蓮は知っているんだ。


『瑜伽……私が開扉しても構わないかな……? 勿論、その為であるのなら、調伏も厭わないつもりだが』

『調伏とは、奎迦住職の口からそのような言葉が聞けるとは、思いもよらなかったな』

『私が……ではなく、護法の方を言っているのだが。如何だろうか』


「あっ……」

 住職と和尚の会話が頭の中に浮かんだ瞬間、思わず声が漏れてしまった。


「どうされましたか、依さん」

 住職の目線が僕へと向いた。

「すみません……つい……あの……余計な事を考えていて……本当にすみません」

 説法を中断させてしまった僕だったが、住職は穏やかに微笑みを見せた。


 ずっと耳にしていたのに、そこまで深く思う事はなかった。

 数々の言葉の中には、答えが見えていたのに……。


『閻魔天供……とお伝えしても、問題なくご理解頂けますか』

 法力の事にばかり気がいっていた。

 秘密と言えども、そこに通じる事が出来るというのは、当然、知っているだけの事では済まない。それが出来るという事は、勿論の事であり、成す事を許されている者だという事だ。


『出来ないと言うならば、私が行うまで。その時、瑜伽……目を背けずにいられるか……?』

『ですから、私が行くと言っているのですよ……』


『裁くお方がいなければ、裁く事が出来ないのですから』


 連れ戻す事が出来るという、その権限は相当なもの……。

 住職の力の大きさを改めて知った。だけど住職は、その力を見せて押さえ付けるような事はしない。

 秘められた力の大きさが、強さと言うより、穏やかさに表れている……そう感じた。


 続けられる住職の説法。じっと住職を見つめる僕に目線を合わせると、にっこりと笑みを見せながら言った。


「左脇に慈悲を置き、右脇に智慧を置く……向かい側にいる私から見れば逆にはなりますが、無論それは中心に坐される方から見ての左右です」

 住職が説く慈悲は、苦を抜き、楽を与えるという事であり、智慧は、道理を見極め、判断するという事を意味している。

 その言葉は、僕に向けられているのだろう。



「お力に添えます事、お間違えないかと存じておりますが……如何でしょうか」


 僕の左脇には蓮がいて……右脇には羽矢さんがいる。

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