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処の境界  作者: 成橋 阿樹
第四章 法と呪
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第25話 開白

「……まったく」

 羽矢さんにちらりと目線を向ける回向は、そう呟くと呆れたように溜息を漏らした。

 そして、皮肉めいた口調で羽矢さんに言う。

「本尊の信頼を得られないとあれば、奎迦住職に苦を作る事になるぞ?」

 回向は、そう言って揶揄うように、ははっと声を上げて笑った。

「回向……」

 顔を引き攣らせる羽矢さんは、同じように、ははっと笑い返すと、回向の頬をギュッと摘んだ。

「痛っ……! いきなりなんだよっ」

「お前が言うな、お前がっ!」

「うるせえ、お前の説法はもう聞き飽きてんだよ、想像がつくからその先は言うんじゃねえ」

 羽矢さんと回向のやりとりに、僕と蓮は顔を見合わせて笑った。


「余計な事、言ったな……回向の奴。羽矢の地雷、思いっきり踏んだぞ」

 蓮はそう言って、クスリと笑った。

「そのよう……ですね……」

 これって……僕の所為……? 僕が羽矢さんを止めようとしたから……。

 自分の行動に後悔し、気落ちする僕の心情に気づく蓮は、またクスリと笑みを漏らした。

「何年、俺たちは行動を共にしている? 依。お前だって羽矢の性格は、分かりきっている事だろう? 逆に羽矢にしても、依……お前の事はよく分かっているんだ」

「あ……え……っと……それって」

「羽矢の思惑通りって訳だろ」

 蓮は羽矢さんに目線を向ける。羽矢さんが回向に何を言うかを分かっているからだろう。

「依……お前に何も言わずに魂抜きを行ったのも、な」

「僕が……不安を感じる事も……それも分かっていたんですね……」

「まあな。元々はこの地に安置されていた像だ。お前の承諾なしに事を進めるという事は、そういう事だろ、依」

「……はい」

「だが……それでもお前は、羽矢に託す事を望んでいたんじゃないか?」

「……ええ。今の僕には、建て直す事など無理な話です。像を手にしたとしても、どうする事も出来ません。それは初めから分かっていました。その像がそこにあり、開眼が済んでいた事に、安堵と期待はありましたが、それでも開眼の済んだ像を、安置する場所も持てない……開扉する事もなく、秘仏とするにしても……ただその姿を隠すだけで、本来の意味を成しません。その姿がそこにある事だけは、一時だけの安息でしかないと気づいてはいましたが……勧請するにしても、羽矢さんの寺院には既に同じ本尊が置かれているのですから……率直に言うならば、行き場がない……そう思った事も確かでした」

「だから……待っているんだよ。奎迦住職は」

「……本堂で待つというのは……そういう事だったんですね……」


 蓮は、羽矢さんが言葉を口にするのを、見守っているようだった。

 じっと羽矢さんに目線を向ける蓮。その表情には笑みが浮かんでいる。


「ああ、だったら丁度いい。ジジイの説法に、お前も招待してやる」

「あ? なんで俺が」

 呆気にも取られている回向に羽矢さんは、ニヤリと笑みを浮かべて言った。その言葉は、耳で聞くだけでは区別ないものだった。



「決まったな……」

 羽矢さんの言葉を聞く蓮は、そう呟くとクッと肩を揺らして笑った。

 なんだか楽しそう……蓮。


 羽矢さんが口にした言葉は。

 この山で蓮が口にした言葉と、響きは同じではあったが。

 それぞれの道によって、それぞれの意味を繋ぐものだ。


 蓮と似た口調で羽矢さんが口にする事に、蓮は顔を僅かに歪めたが、勿論、不快に思っている訳じゃない。

 ただ、自分を真似た言い方に、互いの信頼度が笑みとなって伝えられる。



「さあ……『開白(かいびゃく)』だ」

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