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処の境界  作者: 成橋 阿樹
第四章 法と呪
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第22話 両界

 僕たちの会話の中、和尚が動き出した。

 和尚の動作に僕たちは会話を止め、和尚を見つめていた。

 傷だらけの阿弥陀如来の像を、丁寧に布で覆い、そっと手にする。

 僕たちは、和尚の動きを見守りながら、開かれた壇へと視線を向けた。


 整えられた壇。中尊には大日如来。左脇侍(きょうじ)に不動明王だ。

 そして、右に置かれた影向座には天津神(あまつかみ)を擬人化して描かれた絵が掛けられている。

 それは大日如来の化身とされる、大日孁貴神おおひるめのむちのかみだった。



「冥府の番人、死神。そして『無量』……か」

 和尚はそう言うと、阿弥陀如来の像を羽矢さんにそっと手渡した。

 羽矢さんは、両手でしっかりと像を受け取った。

 和尚は、静かに二度、羽矢さんに問い掛けるようにも頷きを見せる。

 その頷きで、和尚の心情を読み取ったように羽矢さんは答えた。

「承知した」

 羽矢さんの言葉に、和尚は安堵したようだった。


 阿弥陀如来の像を手にする羽矢さんは、蓮へと目線を向けるが、蓮は羽矢さんの目線をちらりと一瞬だけ受け止めて、何も答える事なく目線を外した。

 僕は、そんな蓮の様子に、どうしたのかと気にはなったが、和尚の声が流れ始める事に、引かれるように僕たちは和尚へと視線を向ける。

 和尚は、壇へと目線を向けながら、僕たちに話を聞かせた。


「山中他界。死した後、霊魂が赴く場所……生を受けるまでの魂の領域であり、蘇りを果たす処。つまりは『あの世』だ……山そのものが浄域であり、仏と神の処でもあると……な。そして山の中腹に経典を埋める。山全体が経典であり、山を登る事で仏と一体となる事が出来るという訳だ」

 和尚の言葉に、羽矢さんが答える。

「何故、あの山の中腹に大日如来の像が埋められていたのか……それが教えであり、大日如来そのものだと示す為だろ? そして、あの山全体が……」

 羽矢さんは、一旦、言葉を止める。言葉を止めた事に、和尚が羽矢さんを振り向いた。

 互いの目線が合った事で、羽矢さんは止めた言葉の続きを口にした。

 和尚には、羽矢さんが口にする言葉が分かっているようだった。


「曼荼羅であるという事だ」


 羽矢さんの言葉に和尚は、静かに笑みを見せ、深く頷いた。

 羽矢さんは和尚を見ながら、言葉を続ける。

「あの山が神仏混淆を残すのも、頷ける話だ。そもそもが神仏混淆だったんだからな。山全体が曼荼羅。それは、此岸(しがん)と彼岸……両界を繋ぐとする『橋』をも意味する……」

 そう言いながら羽矢さんは、蓮に言葉の先を告げさせる目線を送った。

 蓮は、その目線を受け止めて、和尚に目線を移して答える。


「此岸はこの世、彼岸はあの世。つまりは天と地を繋ぐ橋……『天浮橋(あまのうきはし)』という訳だ。だが、天と地を繋ぐとは言っても、天と地に実際に繋がっている訳じゃない。その名の通り、浮橋だからな。天から地を見下ろす事が出来るという橋であり、それは天にいるとされる神が、下界へと降り立つ為の橋と言えるもの……天と地を分ける中での混沌……元より神世。神が国を創ったとされる国産みの思想に始まる。そして、国を生み出す中で探す事となった大日如来の印文……そのもう一つの役割は」

 蓮は、一呼吸置いて、言葉を続けた。


「天孫降臨」

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