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処の境界  作者: 成橋 阿樹
第四章 法と呪
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第15話 渾然

 はっきりとした口調で蓮は言った。


「高宮 右京……いや。聖王(じょうおう)


 高宮が……聖王……。

 

 蓮の言葉を聞きながら高宮は、そっと目を伏せると、静かに笑みを漏らした。

「紫条さん……あなたは本当にそう思っているのですか?」

 高宮はそう言いながら、ゆっくりと蓮に目線を向ける。その目線は強くも真っ直ぐで、蓮が口にした事を惑わせるようだった。

 蓮は、高宮の目線を真っ直ぐに受け、その目が揺らぐ事などなかった。

 自分が口にした事に迷いなどない。そんな強い目線だ。

 互いの目線が一線に重なったまま、間が開いていく。


 蓮と目線を合わせたままの高宮だったが、続く沈黙に耐えられなかったのか、困ったようにも笑みを漏らした。

 それでも蓮は、表情を変える事なく、じっと高宮を見続けていた。誤魔化す事も、話を逸らす事も出来はしない……そう言っているようだった。先の高宮の問いに答える事もなく、答えない事が、口にした言葉に違いはないと決定づけている。だが、高宮は肯定も否定もする事はなかった。


 暫くの間、無言の状態が続いたが、間を裂いたのは、高宮だった。


「一度、口にした言葉を(たが)える事はないという事ですか。紫条さんらしいですね。私が聖王……成程。興味を引くお言葉ですね……」

 その言葉に蓮は、ははっと声をあげて笑うと、探るような目線を高宮に向けて、ニヤリと口元を歪めた。

「それならもう少し深い話をしようか」

 その言葉に高宮は、蓮の笑みに対抗するようにも、クスリと笑みを返す。蓮が何を話すのかを分かっているのだろう。


「宮寺が管理していた神社の話だ」


 互いに向け合う目線。また言葉の間が開いた。

 言葉のない静かな空間に、後方から微かにも足音が聞こえてきた。

 近づいて来る足音が、蓮の表情に自信を溢れさせる。


 ……羽矢さん。

「向こうの様子はどうだ、羽矢」

 そう訊く蓮に並ぶ羽矢さんは、ふっと笑みを見せると答える。

「問題ない。壇は整えられている。門が開いているのがそれを証明しているだろ。だから来たんだ、迎えに……ね」

 ……迎え。


 その言葉を聞いた途端、住職が羽矢さんに言った言葉が不意に浮かんだ。

『一つでも漏らす事なく、導きなさい』

 ……そうだ……。

 羽矢さんなら、言われなくても分かっている事だ。住職にしたって、羽矢さんにそう教えを説いてきたのだから、口にしなくてもいい言葉だったはず……。それをわざわざ口にした。

 蓮と羽矢さんの会話が続く中、僕は高宮へと視線を向けた。

 僕の視線に気づく高宮は、儚げにも見える笑みを見せた。

 そんな高宮の表情を、羽矢さんはじっと見ていた。

 そして、羽矢さんは高宮に言葉を投げ掛ける。


「導いていいなら……導くが。どうする」


『導いていいなら……導くが。俺は祓う事はしない……』


「……そうですね……先ずはその深い話というものをお聞かせ頂いてから、答えましょうか」

 高宮の言葉に、蓮は分かったと頷いたが、目線を羽矢さんに向けた。

 蓮に変わって、羽矢さんが淡々とした口調で話を始める。


「仏は神と名を変える。その神は『権現』と名を称す。若しくは『明神』だ。だが、その名さえ禁じられると、天神地祇を祭神とした。廃仏毀釈を免れる(すべ)は『改称』。権現を神と称しても、その名を持って祭神とするのを禁じたのは、権現という言葉が仏教用語だからだ。徹底的な仏教排除って訳だが、それでも神の前に神が立ち、神の迹を神が垂れる。どちらにしても神と神だ。そもそも『権現』とは『神号』だからな。それに神号はもう一つ……」


 続けられた羽矢さんの言葉に、高宮は深く頷いた。


「『菩薩』」

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