表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
処の境界  作者: 成橋 阿樹
第四章 法と呪
123/182

第14話 生偈

『己が募らせた思いを叶える(すべ)を持っているのなら、己がその術を使う事は公平であると言えますか? そして、その術がどのように作用しようとも、力ある者がその力を封じる事は公平でしょうか』


 神宿り。磐座に宿した『和魂(にきたま)

 衣冠姿の高宮が答えていた。


『私をそうさせたのは……誰ですか』



「生きとし生けるもの全てが悪で、悪人は全て救われる……か。回向がそんな事を口にしたのも、理解出来るよ。おそらく、その(すべ)……まあ……羽矢が言うなら『方便』を探した結果って訳だ。だが……それは、無量と言っても、羽矢とは少し違うぞ。まあ、その方便も知ってはいるがな。羽矢の領域を侵す事にはならないと知っていればと、回向が言っていただろう。気づいたって事だ。だが、羽矢にとってはそれもまた一つの方便であり、辿り着く答えは同じものだと当然分かっている。それもまた、尊重すべき導きだってな」

「だから……彼岸なのでしょう」

「そうだな……彼岸は向こう岸を意味し、それは浄界の事を言っている。羽矢が領域とする処だ」

「藤兼さんは、霊山に登った時に気づかれていたんですよね」

「ああ。霊魂があると伝えたからな……その時点で察していたよ。人神があると直ぐに答えたからな。怨霊信仰だと思考を巡らせていた。山を登った時には、もう自分的に確信出来ていたんじゃないか」

「……そうですか」

「一人で山を登った後、羽矢は俺を住職が受けている法要に同行させた。住職もそのつもりでいたんだよ。お前だって、それに気づいたから姿を現したんじゃないのかよ?」

 蓮は、クスリと笑うと、目線を高宮に向け、言葉を続けた。

「……」

 蓮の言葉に高宮は答えず、口を噤んだ。

「ちゃんと聞いているのか? 『人神があると直ぐに答えた』と言ったんだぞ、俺は」

「……だからあなたも……気づいていたって事なんですね」

「ああ。だから……お前が決めろ」

 蓮は、二つに分かれた道を指して、高宮に言った。

 迷っているのか高宮は、難しくも表情を曇らせ、深く考えているようだった。


 蓮は、何も答えない高宮へと、言葉を投げ掛ける。

「お前が本当はどうしたかったのかは知らないが、全てはお前の為なんだよ……」


 その後に続いた言葉に、僕はただただ驚いていた。

 だがそれでも、当主様があの山に行く事を命じたのも、ここまでの道のりの中で聞いた数々の言葉には、辿り着くべき答えへの導きが含まれていたと気づいている。


『例え、戻る体がなかったとしても、『依代』に与えればいい。だがそれは……復活の為の供物として、だ』

 羽矢さんの言っていた言葉の後に、蓮が言っていた言葉が、はっきりと色を加えるように頭の中を流れた。

『神は神を殺す神殺し……その不興を買ったが上に招いた、閉ざされた『戸』……開きに行こうとしようか』



 作られたものでもなく、作り変えられたものでもない。

 作られる事もなく、作り変えられる事もない。


 その存在を目に捉え、触れる事が出来る姿形を象ったとして、その姿形が消えたとしたら、消えた姿は何処に行ったというのか……。


『魂の挿げ替えを元に戻すならば、中央に坐す本尊を一時的に『別尊』に変更して下さい』


 閻魔天供法と泰山府君祭。

 どちらにしても、同じ結果をもたらすものだ。


「高宮 右京……いや……」


 続けられた蓮の言葉に高宮は、そっと目を伏せると、静かに笑みを漏らした。


「『聖王』」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ