第14話 生偈
『己が募らせた思いを叶える術を持っているのなら、己がその術を使う事は公平であると言えますか? そして、その術がどのように作用しようとも、力ある者がその力を封じる事は公平でしょうか』
神宿り。磐座に宿した『和魂』
衣冠姿の高宮が答えていた。
『私をそうさせたのは……誰ですか』
「生きとし生けるもの全てが悪で、悪人は全て救われる……か。回向がそんな事を口にしたのも、理解出来るよ。おそらく、その術……まあ……羽矢が言うなら『方便』を探した結果って訳だ。だが……それは、無量と言っても、羽矢とは少し違うぞ。まあ、その方便も知ってはいるがな。羽矢の領域を侵す事にはならないと知っていればと、回向が言っていただろう。気づいたって事だ。だが、羽矢にとってはそれもまた一つの方便であり、辿り着く答えは同じものだと当然分かっている。それもまた、尊重すべき導きだってな」
「だから……彼岸なのでしょう」
「そうだな……彼岸は向こう岸を意味し、それは浄界の事を言っている。羽矢が領域とする処だ」
「藤兼さんは、霊山に登った時に気づかれていたんですよね」
「ああ。霊魂があると伝えたからな……その時点で察していたよ。人神があると直ぐに答えたからな。怨霊信仰だと思考を巡らせていた。山を登った時には、もう自分的に確信出来ていたんじゃないか」
「……そうですか」
「一人で山を登った後、羽矢は俺を住職が受けている法要に同行させた。住職もそのつもりでいたんだよ。お前だって、それに気づいたから姿を現したんじゃないのかよ?」
蓮は、クスリと笑うと、目線を高宮に向け、言葉を続けた。
「……」
蓮の言葉に高宮は答えず、口を噤んだ。
「ちゃんと聞いているのか? 『人神があると直ぐに答えた』と言ったんだぞ、俺は」
「……だからあなたも……気づいていたって事なんですね」
「ああ。だから……お前が決めろ」
蓮は、二つに分かれた道を指して、高宮に言った。
迷っているのか高宮は、難しくも表情を曇らせ、深く考えているようだった。
蓮は、何も答えない高宮へと、言葉を投げ掛ける。
「お前が本当はどうしたかったのかは知らないが、全てはお前の為なんだよ……」
その後に続いた言葉に、僕はただただ驚いていた。
だがそれでも、当主様があの山に行く事を命じたのも、ここまでの道のりの中で聞いた数々の言葉には、辿り着くべき答えへの導きが含まれていたと気づいている。
『例え、戻る体がなかったとしても、『依代』に与えればいい。だがそれは……復活の為の供物として、だ』
羽矢さんの言っていた言葉の後に、蓮が言っていた言葉が、はっきりと色を加えるように頭の中を流れた。
『神は神を殺す神殺し……その不興を買ったが上に招いた、閉ざされた『戸』……開きに行こうとしようか』
作られたものでもなく、作り変えられたものでもない。
作られる事もなく、作り変えられる事もない。
その存在を目に捉え、触れる事が出来る姿形を象ったとして、その姿形が消えたとしたら、消えた姿は何処に行ったというのか……。
『魂の挿げ替えを元に戻すならば、中央に坐す本尊を一時的に『別尊』に変更して下さい』
閻魔天供法と泰山府君祭。
どちらにしても、同じ結果をもたらすものだ。
「高宮 右京……いや……」
続けられた蓮の言葉に高宮は、そっと目を伏せると、静かに笑みを漏らした。
「『聖王』」