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処の境界  作者: 成橋 阿樹
第一章 神と仏
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第11話 隙間

 表情が一変した羽矢さんを見る蓮は、満足そうだった。

「ようやく本気になったか、羽矢」

「あ? なんだって?」

 蓮を振り向く羽矢さんは、苛立った顔を見せている。

「……本気って……ただ単に機嫌が悪くなったように見えますが……」

 僕は、苛立ちを露わにする羽矢さんを見て、少しハラハラしていた。

「羽矢の場合、機嫌が悪くならねえと、本気にならねえだろ。自分の領域が侵されるの()()は、極度に嫌うからな」

 鼻で笑う蓮に、羽矢さんの機嫌が更に悪くなる。

「俺だけじゃねえだろっ! 誰だってそうだろーがっ!」

「黙れ。声が響き過ぎだ」

「……」

 口を噤んだ羽矢さんだったが、それは蓮に言われたからではないだろう。

 真顔になる羽矢さん。吐き出した苛立ちが、冷酷を呼ぶようだった。それに合わせて、蓮の表情も真顔に変わった。

 それが何故なのか、僕にも分かった。


 僕たちの方へと、何かが近づく気配を感じる。

 圧迫を与える空気感。それが段々と強く感じてくる。

 その気配が目で捉えられるまでに近づいても、それは『姿』というには形がない。

 そこにある空間をモヤモヤと動かしている……揺れ動いて見えるそのものに、何かがそこにいるというのは分かった。

 羽矢さんの足が、ゆっくりと前に半歩だけ動いた。

 羽矢さんに反応を見せるかのように、揺らめきが一度だけ大きくなった。

 腕を組む羽矢さんのその佇まいは、凛としていた。

 そんな羽矢さんの様子を見る、蓮の口元が笑みを見せる。


 羽矢さんは、真っ直ぐに視線を置くと、口を開いた。

 低く、静かな声が、彼の今の姿をはっきりと映し出すようだった。

「死神の名において命ずる。境界の隙間……冥府と下界を繋ぐ道を抜けようとする者、抜けさせようとする者を探せ」


 ……境界の隙間……冥府と下界を繋ぐ道……。

 それが抜け道……。

 ああ、そうか……。

 門を開けなくても通る事が出来る道って事か……だけどそうであっても、人が通る事など簡単ではないのでは……。

 ……だから……『冥府』と『下界』なのか。通るのは人じゃない。


「……見つければ……如何に」

 羽矢さんの言葉に、重く、空気を震わせるような声が返ってきた。


 使い分けられる二つの顔……羽矢さんの目が、冷酷さを見せる。

 低く、静かな声だったが、その声は、はっきりとした重さを持っていた。


「狩れ」


 冷ややかに放たれた羽矢さんの言葉に、声が返ってくる。

「……承知」

 その声が聞こえると、バッと風を切るように僕たちを抜けて行った。

 羽矢さんの……使い魔……。


「……俺から逃げられると思うなよ」

「冥界と下界を繋ぐ道、ね……そもそも普通じゃそんな道ねえからな? 羽矢」

「まあな……」

 羽矢さんは、そっと目を伏せると、呟くように言葉を続ける。

「死ななければ……そこに道はない。普通はね……。その道を作るのが、下界での俺の仕事でもあるって訳だけどな」

「……そうだな」


 ふっと笑みを漏らす蓮は、羽矢さんをじっと見つめた。

「まあ……でも。流石は死神。狩れとは容赦ないな?」

「蓮……この領域での俺の名は死神だ。死神の専売特許が何だか分かるだろう?」


 蓮は、興味深そうに羽矢さんを見つめると、笑みを漏らしてこう言った。


「ふ……『魂狩り』か」

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