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処の境界  作者: 成橋 阿樹
第四章 法と呪
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第5話 観念

 神祇伯の反応を窺いながら羽矢さんは、自分の目元を指先でそっとなぞりながら言った。


「先ずは……その目で、ね……?」


 心の奥を見透かすような目線を向けて『死神』が笑う。


 ……目……。

 ゾクッと体に震えを覚えた。

 だが、これは単純な話ではないと理解出来れば、恐れるに至らない言葉だ。

 秘密集会(しゅうえ)

 それは、住職が神祇伯に言った言葉そのものを指している。


『中央に坐す本尊を一時的に『別尊』に変更して下さい』


 諸仏諸尊の集まった楼閣を表すもの……いわゆる、曼荼羅を言っている。

 その配列は、理解出来る者でしか理解出来はしない。

 水景……『瑜伽』 結び付き、成就を意味するその名。

 住職の言葉で、その壇は目に浮かんだ事だろう。


 神祇伯は、羽矢さんの目線を怪訝な顔を見せて受け続ける。

 羽矢さんは神祇伯の言葉を待っているようだったが、神祇伯は安易に答えようとはしない。

 それは秘密というものが重きを置いて、口を閉ざさせるのだろう。

 羽矢さんと神祇伯が互いに目線を合わせる中、回向が長い息をつくと檜扇を閉じた。

「同じもの……持ってねえじゃねえか」

 そう言って回向は、檜扇を神祇伯に返すように向けたが、神祇伯は受け取ろうとはしなかった。

 檜扇を受け取らない神祇伯に、回向は檜扇を持つ手を下ろす。

「それとも……俺が同じものを持ったならこの檜扇も、親父の求めたものにでもなると思ったのか? 俺が代わりに、あんたの思いを受け継ぐ事が出来るとでも?」

 回向は、苛立った様子を見せていた。檜扇を持つ手に力が籠る。

 ギリッと歯を噛み締めると、回向は言った。


「これが回向だなどと言うんじゃねえぞ……与えるどころか、俺が持っているものまで奪ってんじゃねえか。だったら……」

 僅かにも震える声。回向は、檜扇を強引にも神祇伯に押し付けた。


「取り戻せよ。出来んだろ……やれよ。やってくれよ……俺の全力……そこにあるんだからよ」


 回向の言葉に、神祇伯の表情が変わる。

 神祇伯は、檜扇をギュッと握り締めた。


 その様子に、互いの思いが通じ合えたんだと感じた。


 突然、ゆらゆらと揺れていた火の玉が、バチッと大きな音を放ち、燃え上がった。

 互いを飲み込んで大きく膨らんだ火の玉が、本殿の神体に炎を移し始める。

「『死神』! 力を得ようと神力に群がるぞ! 逃すな!」

 蓮が羽矢さんへと声をあげた。

「任せとけ。ジジイが戻って来るまで逃がしはしない。祟り神になどさせるかよ」

 羽矢さんが指を弾く。大蛇の形を作った使い魔が現れ、火の玉を縛るように絡みついた。

「羽矢……お前、連発しているが、開き直ってんのか?」

「あ? なにが?」

「おそらくな……住職、冥府に行っていても聞こえていると思うぞ、お前の声」

「なんで? 冥府にいる時、俺、下界のジジイの様子なんて分からねえぞ」

「格が違うだろ、格が」

「格が違うとか言うな」

「違うだろー……格が」

「蓮……お前ね……言い過ぎだろ」

 羽矢さんは、そう言いながらも、笑みを見せている。なんだかんだ言いながらも、住職を敬っているからだろう。

「だってお前……ここ、神社だぞ」

 蓮は、クスリと笑って、拝殿を振り向くと、言葉を続けた。


 蓮の言葉に、皆が拝殿の方を振り返る。

 トンネルのように(ひら)いた空間。暗く、先は見えなかったが、その空間は冥府へと繋がっているんだと分かった。



「繋がっているじゃねえか、仏の道に。それも……真っ直ぐにな」

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