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処の境界  作者: 成橋 阿樹
第三章 天と地
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第34話 真意

『蓮……お前も、お前の力を支えてくれる者を大事にしなさい』


 当主様の言葉が……胸に染みた。



 火の点いた人形が一つに纏まり、住職の掌で青白い光を放っていた。

 神祇伯は、冷ややかな目を住職に向けながら口を開く。

「……仏との合一をはかる事で成せる……だと……?」

 檜扇を持つ手に力が籠ったのが分かった。

 込み上げる感情は悔しさであるのか、その思いを握り潰すようにか、その手に震えが見えた。

 神祇伯は、睨むような目線を住職に向け、言葉を続ける。

「よくもその言葉を私に言えたものだな、奎迦。一時(いっとき)は、共に宣教していた身ならば、今の私の立ち位置はどう見える? 験者であれば寺に属せ、寺に属したならば、廃寺を免れる為に神社と名を打ち、還俗して神職者……国の祭祀を司る長官、神祇伯の地位に落ち着いたと、羨望に値するか?」

「それでも……総代、流は力を注いだのではないか、瑜伽」

 住職と神祇伯の会話で、当主様を含めたこの三人が、共に肩を並べていたんだと知った。


「力を注いだのは、奎迦……お前も同じだったのは、私にしても分かっている事だ。神道の広がりが国の望むままに大きくなれば、それに力を貸した仏教者も用済みだったではないか」

 住職は、神祇伯の強く真っ直ぐな目線を、冷静に受け止めて答える。

「そこに重きを置かれたならば、どのような(すべ)をもってしても、叶わぬ事。その世に伴い、そこで救われるのは一握りの者だけだろう」

 神祇伯は、鋭い目線を住職の手元にある魂へと向けて言った。

「奎迦、そう気づいているならば、その手にした魂こそが導きに値しないと、思いはしないのか。流がどれ程までに力を注いでも、神世を求めたこの国は、国主こそが神であり、国そのものが神世の象徴だ。では、その神世の神は、次は何を()()すると思っている?」


 その後に続けられた神祇伯の言葉が、酷く胸に刺さった。

 与えても与えても、与えた者は奪われていくだけ……そんな虚しさが存在を薄れさせていく。

 ……当主様。

 僕の目から涙が零れ落ちた。

 それに気づく蓮は、僕の肩にそっと手を置き、落ち着いた様子を見せてはいたが、本当は僕よりも酷く胸を痛めている事だろう。


 寂しげな様子で、地蔵菩薩が運ばれて行くのを見送っていた当主様。

 救いの手が、多くの人たちへと届く事を願って……。

 全ての神社、寺院に立ち入れる事も、当主様は神社も寺院も全て含めて守れるようにと思っての事であっただろう。

 神祇伯が悔しさを募らせていた事も、全てを知った上で当主様は救おうとしている。

 何が正しくて、何が間違っているのか、分からなくなるようなこんな状況の中でも。


 神祇伯の口から吐き出される言葉は、救おうとするなら一人の力ではどうにもならない事を教えている。


『反目とは、どの界視点のお言葉かな』

 閻王の前でそう口にした当主様。

 全てを知った上で、自身の役目をそれでも務めようとしている。


 ……それが……役目であると……割り切れるものなのだろうか。

 いや……当主様は違う。

 当主様は……。


 当主様は、全てを知りながらも、守ろうとしている。

 例え自分が犠牲になったとしても。

 神祇伯が言ったその言葉は、どれ程の強い力を持っていても、抗えないものがあると……教えられたようだった。



「次は『陰陽師の排除』だ」

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