表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/4

甘い毒

 翌朝、再びノルツ殿下は公爵邸を訪れた。

「やぁ、リンカ。調子はどう?」

 ノルツ殿下は、新緑の瞳を細めて微笑む。今までよりもどこか甘い柔らかな視線に、どくん、と胸が高鳴る。


 ……ああ。ノルツ殿下は本当にわたしに復讐するつもりなんだわ。


 だったら、わたしにできることは。

 ノルツ殿下の張りぼてで復讐のための愛を喜ぶこと。


「……はい、お陰さまでかなりよくなりました」

 わたしが頷くと、ノルツ殿下は表情を曇らせた。

「本当に?」

 そう言って、わたしの頬に手を添えて、額と額をくっつける。

「……っ!」


 かぁっと体温が上がり、どくどくと心臓が脈打つ。


 ノルツ殿下!? いくら、わたしに復讐するためとはいえ、それはやりすぎじゃないかしら。


 でも、今までにないほどの急激な接触に、復讐のことなんて忘れて喜んで、視界が滲む。


「熱い。それに、瞳も潤んでいるね。やっぱりリンカ、君はまだ安静にしていた方がいい」


 そう言って、ノルツ殿下はわたしを抱き上げた。

「ノルツ殿下!?」

「暴れないで。落とすと危ない」


 で、でも。

 こんなのって。


 困惑するわたしをよそにそのまま応接室を出て、ノルツ殿下はわたしの部屋のベッドに横たわらせた。


 そして、ご丁寧に布団もかけてくれる。

 ポンポンと、布団を優しく叩かれれば、まるで幼い頃お母様に寝かしつけられた時みたいで、なんだか胸がくすぐったい。思わず、頬が緩む。

「──リンカ」


 そんなわたしの名前を愛おしそうに、呼んでノルツ殿下は指を絡めた。


「愛しているよ」


 愛してる。それは、ノルツ殿下から、初めて聞く言葉だった。

 これが、本当だったなら。どんなに嬉しかっただろう。


 何度も何度も夢想した。ノルツ殿下にそう言われる日を。


 でも、それが嘘だとわかっていると、こんなに虚しいなんて。


 空虚な気持ちに蓋をしてわたしは微笑む。

「はい。わたしも愛しています」

「本当に?」

 ノルツ殿下が瞬きをして、それから嬉しそうに頬を緩めた。柔らかなその表情に息が詰まる。


 ──心の底から、あなたのことを愛しています。たとえ、あなたがわたしを愛していなかったとしても。


「ずっと、一緒にいよう」

 今まで一度も聞いたことがないほど、甘い甘い言葉。砂糖菓子みたいに口の中でほどけたそれを呑み込んだ。


 いつか、この言葉が致死量に達するまで、わたしはあなたを更に好きになり、愛し続けましょう。


 ──その先にあるのが、別れだとしても。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[気になる点] この先がめっちゃ気になりますー! ノルツ殿下のいきなりの行動変化もきになります!ほんとに主人公をすきなのか、はたまた主人公が考える通りほんとに復讐なのか!? ノルツ殿下にとって彼女はど…
[一言] 性癖に刺さりました。続き待ってます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ