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破棄と解消

 婚約を解消する。

 言うだけならばとても容易い。


 わたしはすぐさまお父様の書斎を訪れた。

「どうしたんだい、リンカ」

「お父様、……お願い」


 わたしがそう言うとお父様は、おや、と首をかしげた。

「なにが欲しいのかな? 新しい靴? ドレス? 宝石? それとも──」

「……ノルツ殿下との、婚約を解消したいと考えています」


 わたしの言葉にひゅっ、とお父様が息を止める。

「……本気です」

「ど、どどどど、どうしたんだい」

 そう言いながら、お父様は背中を擦ってくれた。

「とりあえず、おおお落ち着きなさい?」

「……わたしは、すこぶる冷静です」


 むしろ動揺しているのはお父様の方だわ。

 ……なんてわたしは傲慢だったのか。気づいただけだもの。



 わたしが暗い気持ちで俯いていると、急に、お父様が、ひっ、と声をあげた。


 その声に、俯いていた顔をあげる。


「お父──」

「そう。なるほど、君は私との婚約を解消したいんだね」


 え。


 聞き間違えるはずもない──今度はさきほどと違ってほの暗さは感じない──声に、振り向く。


 そこには、ノルツ殿下が立っていた。


「失礼。盗み聞きするつもりはなかったのだけれど……、書斎の扉が開いていて。私の名前が聞こえてきたものだから」

「ノ、ノルツ殿下、娘は少々混乱しておりまして」


 まさか、もう本人に聞かれていたなんて。動揺して固まったわたしを気にせず、ノルツ殿下は一歩また一歩と近づいてくる。


「リンカ」


 ノルツ殿下はわたしの名前を呼んだ。かつてないほどの甘い声で。

「!?」

「リンカ。あのね、婚約解消は無理だよ」


 そしてまるで、幼子を諭すようにそう言う。

「解消というのは双方の合意があってのもの。リンカがしようとしているのは、婚約破棄だ」

「婚約、破棄……」

「そう」


 ノルツ殿下はついにわたしの元までたどり着くと、わたしを引き寄せた。

「!、!?」


 こんな風に、抱き締められたのは初めてのことだった。

「婚約破棄はリスクを伴う。私は王家の人間だ。リンカは、アイザシュバイン公爵家が、取り潰しになってもいいの?」

「よくない……です」


 わたしがそう言うとノルツ殿下はうん、そうだね、と微笑んでわたしの頭を撫でた。


「だったら婚約破棄はできないよ」

「……はい」


 でも。でも。でも。

 ノルツ殿下にこれ以上恨まれたくない。


 わたしは、それがなにより怖い。


 恐怖で震えたわたしの手を握ると、ノルツ殿下は甘く囁いた。

「震えてるの? 可愛い」

「可愛い……」


 ノルツ殿下の口からは聞きなれない言葉に、瞬きをする。そんなわたしを見たノルツ殿下はそうだね、と続けた。

「可愛すぎて、我慢できない」

 そう言って、わたしの頬にキスをする。


 頬とはいえ初めてのキス。

 それに、甘い呼び名に、甘い言葉。


 ノルツ殿下の豹変についていけなくなったわたしは──意識を失った。

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