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七話 血を薄め

 エリシャは立ち上がって、立て掛けてあったスコップを物置小屋にしまった。


「今から魔法の練習をして、使えるようになってもらう。」


「ああ、頼む。」


 俺達は教会に戻った。相変わらず暖かい。早朝よりも暗く見えるが……ああ、あの墓場と、魔法陣のある暗室が南側にあるのか。何故こんな不合理な作りなんだろう。光が入って来にくい。


「魔法の適性を調べるけど、あなたは、闇魔法への適性は高い。それと多分水魔法も。」


 血に塗れたブレザーを荷物から少し離して置いて、エリシャはそう言った。


「その適性って、見るだけで分かるのか?」


「見て分かる人もごく僅かにいるけど、私は分からない。ただ、転移してきた人達は、あの神との魔力の相性が良い筈だから、みんな闇魔法との相性が良い。」


 確かに、夜の神なら闇の魔法を使うのだろう。それと相性が良い奴が集められたとしても、何の違和感も無い。


「じゃあ、水魔法の相性が良いと思うのは何故だ?」


「ごめん、先に訊きたいんだけど、あなたの異能って、血が毒になるっていう能力?それを自分で選んだ?」


「〖心に千々の毒花を〗っていう異能みたいで、血が毒になるっていう説明があった。勝手に選ばれた異能だ。流石に好き好んでこんな能力は選ばないな。」


 隠し事をしても仕方がないから、正直に答えた。あ、そうだ。


「昨日使ったのが初めてな上に、説明も自分以外の全てを蝕むみたいな言葉だけで、具体的な効果が今一分からないんだ。後で、これについても試したい。」


「分かったけど、そうだね、後でじゃなくて今やる。ただ取り敢えず、先に魔法の説明。多分、異能も魔法の相性で選ばれてる。だから、一応水系の異能のあなたは、水魔法への適性が高いと思う。」


「成る程な。それじゃあ、何から始めるんだ?」


「まずは、魔力を認識する所から。普通の人に教えるとけっこう時間がかかるけど、あなたの場合かなり簡単だと思う。」


 まあ、魔力を認識する所からっていうのは定番だな。それより簡単って思われている理由が分からない。何かしたって訳でもないよな?


「何故簡単なんだ?」


「あなたの異能――〖心に千々の毒花を〗、だっけ?その毒なんだけど、魔力を侵食してるの。だから、その感覚を掴んでくれれば魔力は認識出来る筈。ついでに異能の検証もやる。」


 ああ、昨日の戦いを見ている時に感じ取ったのか。魔力はどんな感覚なんだろうか。なんだかんだ魔法は楽しみだし、異能の検証も出来るってことでワクワクしている。


「ああ、分かった。」


「うん。さっき朝食食べた所でやるから、ついてきて。」


 と、いうことで例の場所にやってきた。移動中に異能について話したが、エリシャはかなり詳しく知っていた。


「人間に対して酷い痛みを与えて、魔力を蝕む。それ自体の殺傷力は低いけど、血管に入ると魔力欠乏による死亡はあり得るかも。対処法は薬草やポーションによる治療。回復魔法は魔力を奪われるだけ。」


「それと、多分かかった部分が血みたいに真っ赤な変色を起こすな。具体的効果は不明だが。」


 それよりも、エリシャが此処まで詳しいのは何故だ?神様だからでは片付かなそうだが、と言うか何か受けた事があるような言い方をしている。心あたりは……一つあるな。


「もしかして、昨日ナイフで切られた時に、俺の血がかかったか?それだったらごめん。」


 あの時、傷の割に悲鳴が大きかった気がする。もしそうなら申し訳ないと思う。エリシャは申し訳なさそうな顔をして、


「えっと、ごめん、あれはその、まあ、うん、そうだけど。あっ、でも、君が悪く思う必要は無いし、平気だったから。あれはあの女の人がやった事だから。それに私が触った分もあるから、平気だよ。」


 早口で捲し立てた。慌てていて素が出ている上に、何故か自分で触ったみたいな言い方になっている。和む姿だが、フォローしておきたい。ただ、ここで俺が謝っても堂々巡りだ。


「だったらエリシャも気に病む必要なんて全くないから、お互い様だ。それと、早く魔力を感じるのと異能の検証をしてしまいたい。」


 朝から何度もお互い様と言っている気がする。その言葉の関係と俺とエリシャの関係がぴったりなのか?兎も角、エリシャの視点が次に向いたみたいだ。


「うん。えっと、そしたらまず、これに血をかけて。」


 そう言って、エリシャは何かの布の切れ端を取り出した。


「出来たら、血は自分の一部みたいな感覚で。神経が通ってると思って。この布は魔力も何も無い布だから、その感覚をしっかり覚えて。」


「悪い、ナイフか何か無いか?」


 傷付ける物が無いんだ。流石に指を噛んで血を流せとか言われないと信じたいが、どうだろうか。噛むのは個人的にハードルが高い。


「大丈夫。これ。……あ。」


 エリシャがあのナイフを取り出して、俺は安心する。だが、よく見れば、刃は血に汚れていて清潔とは程遠かった。エリシャもそれに気付いたのか、気まずそうな顔をしている。


「取り敢えず、私の……やっぱなし、処理の方法教える。」


 そう言って上着のポケットから小さな包みを取り出して、井戸へ行く。水を汲むと、包みから乾燥しているように見える厚い葉を取り出して、それを水につけた。それと同時にナイフも浸す。


「この葉で血は落ちるから、しばらく置く。油はその後。悪いけど、噛むか何かで血を出して。」


 やっぱそうか。指を犬歯で噛む。滅茶苦茶痛い上に血はあまり出ない。それでも、少し滲み出た血を布切れに押し付ける。


「えっと、何の感覚も無いんだが。」


「うん、それで良いからその感覚を覚えて。」


 感覚を覚えろって言ってもな……。布に傷を当てる感覚だ。そうとしか言えない。


「取り敢えず、感覚は覚えた。普通の感覚だが、これで良いのか?」


「じゃあ、この布に当てて。この布は魔力を含んでるから。」


「ああ。」


 こっちの布には血の染みが出来ただけだったが、その布切れには反応があるのか?半信半疑で若干光沢のある布に当ててみると、


「おお?何だこれ、変な感覚があるが、これを覚えれば良いのか?」


「うん、しっかり覚えて。」


 エリシャが布切れを葉を浮かべた桶に入れながら答えた。何かこう、血が増えていくような感覚だ。布と馴染んで、繊維をほぐして吸収、増殖しているみたいな。あ、吸収しているのは繊維とは少し違うか?布についていた液体と混ざって増えているイメージだ。この布についている液体みたいな感覚が魔力か?この感覚を覚えるのか。



「ああ、もう覚えられた。多分大丈夫だ。」


 しばらくして、そう声をかけた。この独特の感覚は覚えやすい。


「その感覚が体の中にもあるっていうのは分かる?指先から感覚を伸ばしていって、その感覚を掴んで。」


「ああ。」


 あー、本当だ。鳩尾のあたりに大きく感覚がある。それと別に体の表面にも少し感覚があって、体がずぶ濡れになっているような気がする。


「それっぽい感覚が分かったが、ここからどうすれば良い?」


「そしたら、体の表面じゃない方の魔力の感覚ってどの辺にある?」


「鳩尾のあたりだ。」


「うん、変な場所じゃない。そしたら、魔力を引っ張って、これでいいか、手を突っ込んで魔力で水を動かしてみて。」


 水の入った桶を渡された。これに手を入れて、念じれば良いのか?目を閉じて、魔力を左手に持ってきて、出したそれを水と馴染ませて持ち上げる。何か手が熱くなってきて、


「あ、凄い。」


 声に反応して目をあけると、少し盛り上がった水があった。


「上手くいった、のか?」


「うん。初めてでこれは上出来だと思う。その調子で、水を手に纏わせて持ち上げる、みたいな事って出来る?」


 上出来か、期待に応えられたようで良かった。もうこの布から手を離しても良いか。穴が空いてるな。本当に魔力を蝕んでいるのか。それより水を手に纏わせるって、こんな感じか?あ、駄目だ、水が落ちていく。


「やってみたけど……無理だな。重力に従って落ちる。」


「そっか、じゃあ、それを目指して頑張って。」


「ああ。」


 太陽が天頂に登るまで、そうして練習し続けていた。

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