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五話 歪んでいても信頼を

アドバイスを頂いたので、前話から登場人物の漢字にルビを振るようにしました。

 食器を渡しながら、エリシャの様子を窺う。どうにも感情が読み取れない。さっきは神様の容姿を知っている事を有力な証拠だと考えたが、実はこの世界では神様の容姿は知られているという可能性もある。此処は異世界なんだ。常識が全然違うかも知れない。


 そこまで考えて自嘲する。俺は今の所、エリシャの傍から離れる事は許されないだろう。まあ、エリシャから離れたいとは思わないが。食料も、生活も、知識も、エリシャに頼るしかないんだ。エリシャから与えられるものを、俺は信じるしかない。騙されたと思って信じてみよう。


「よしっ、早く見に行かせてくれ。」


「え、ああ、うん。」


 エリシャは食器を仕舞うと、靴を履いて立ち上がった。そのまま俺をじっと見る。


「ああ、敷物か。ちょっと待ってくれ。」


 急いで敷物をたたんで立ち上がって、彼女についていく。俺も靴が欲しい。井戸にいくまでの数メートルは枯れ草があったが、食事した場所から教会の割れた窓までは草が生えていない。多分、エリシャが踏み固めたのだろう。エリシャの協力者かも知れないが、正直その可能性は低いと思っている。


 エリシャは、自然に俺の事を「守ってくれる」と言った。それは、多分エリシャに戦える協力者がいないからだろう。昨日の女は転移系の異能だったと思う。その様子を見た限り、異能が特別強力でこの世界の人には太刀打ち出来ない、という訳じゃない。だから、エリシャは偶々目の前に異世界転移してきた俺を、いや、偶々なのか?


「なあ、俺はエリシャの前に偶々転移してきたんだよな?」


 エリシャは立ち止まって答えた。急に止まったから、ぶつかりそうになって踏ん張る。


「……あなたは本来、別の所に転移する筈だった。私があの神の魔法に干渉し、無理矢理こっちに召喚させて、隷属させた。伝え忘れてたけど、一応この転移魔法を理解出来るっていうのも神の証拠。」


「昨日の女も転移みたいな異能を使えてたけど、それは違うのか?まさか、ただあの女は高速移動しているだけとかか?」


 エリシャの後ろ姿に問いかける。いや、流石にそれはないか。高速移動出来るなら彼女を殺す事は容易かっただろう。


「高速移動じゃなくて、ちゃんとした転移。でも、あれは、えっと、『異能』って呼んでるの?異能は神から分けられた力だから、あの女の人が理解して使っていた訳じゃない。まあ、後でちゃんと説明するから。」


 エリシャはこっちを見て答え、そして前を向いて歩き出した。まあ、後で説明してくれるならいいか。そもそもその話が本当かも分からないが、兎に角信じないとやってられない。エリシャはすぐに右を向くと、あの割れた窓から中に入る。俺も後に続いた。


 出る時に寒いと思ったから当たり前と言えば当たり前だが、中は暖かい。だが、どうやっているのだろうか。窓は割れているものが多く、風が入ってくる。この状況で室温だけ暖かいのは、魔法か何かなのか?これが一般的な技術なのだろうか。これも訊いてみたいが、鬱陶しがられるのは嫌だから後にしよう。


 エリシャは驚く様子も無く荷物の元へ向かうと、荷物を置いた。俺もその横に置く。そういえば、使ってない荷物が幾つかあるが、それは何故持ってきたのだろうか。まあ、何か意味があるのだろう。


 エリシャは毛布の元へ向かう。今朝跳ね上げられてそのままだ。証拠を見せる前に片付けが先かと思って、毛布を持とうとした。


「いい。代わりに、あれ持って。」


 エリシャは、俺が敢えて気にしないようにしていた女の死体を指さした。有無を言わせないかのように毛布を持つと、俺をじっと見る。


 エリシャは俺に隷属で強制させる事も出来る……いや、今は出来ないんだったか?まあ、俺に頼んでいる訳だから、それには応えたい。兎も角、持たなければ。そう思って近付くが、怖いものは怖い。朝と同じように、目は開いたままで服も顔も血塗れ、所々真っ赤な斑点があるのが毒々しい。斑点は恐らく俺のせいだが。


 世間一般の人はそうであるように、生まれてこのかた死体を持った事など無い。お姫様抱っこのように持てるかと思ったが、重い上に関節がきれいに曲がらず、持ち続けられない。脇の下に手を入れて持ち上げてみたが、俺の身長が足りなくて、女の足を引きずってしまう。最終的に、米俵を担ぐように肩に乗せて持った。


 エリシャは毛布と薄い敷き布団のような物を荷物の所に置いた。と言うか、敷き布団あったのか。小さい敷き布団だから、エリシャだけが使っていたのだろう。


 彼女は荷物から蝋燭を取り出し、指先に火を灯して蝋燭に火を移した。周囲は明るいが何に使うんだ?そして、俺を先導するように進んでいく。この女を先に埋葬するつもりか?兎も角ついていかないと。


 慌てて追いかけるが、俺が歩くと共に肩に置いた女が揺れる。血と甘いような匂いがただよってくる。腐臭はしないが、気分が悪くなるような香りだ。この状態ではあまり会話したく無いな……。


 エリシャはステンドグラスの方に進み、その端の方に目立たないように設置されている扉を開いた。そのまま奥に進んでいく。俺も狭い扉を入る。


 そこは暗い部屋だった。窓は、裏側から見たステンドグラスしかない。光源は、エリシャがつけて回っている蝋燭だけだ。それで蝋燭を持ったのか。蝋燭が灯される度に、部屋の様子が分かっていく。


 床に、白い魔法陣が描かれている。緻密に描かれた正十三角形の図形。エリシャは灯し終えたのか、自分の持った蝋燭を最後に空いていた燭台に立てた。


「女の人の死体をそこに置いて。」


 入り口で立っていた俺にそう言うと、エリシャは扉を閉めた。指し示していたのは陣の中心。入っていいのかと不安になりながら、中心に行って女の死体を横たえる。そして、すぐに端の方へ避けた。


「ありがとう。静かにしていて。」


「ああ。」


 エリシャはステンドグラスを背にして魔法陣を見つめると、目を閉じた。あの神殿を思い出す光景だ。そのまま見ていると、女の死体が輝き始めた。そのまま、魔法陣の一角へ光が流れていく。その光は、魔法陣を模倣するようにはっきりとした線になった。


「夜に欠片の光あれ。」


 エリシャが幽かな声でそう言った瞬間、光が眩く輝いて視界を奪った。


 目が見えるようになった時には、魔法陣の一角は金色に染まっていた。女の死体はそのままで、エリシャの様子も変わらない。ただ魔法陣の金色は、それが本当にあった事をはっきりと示していた。


「これで、信じてくれた?」


 エリシャがそう問いかけた。これが、エリシャの言っていた証拠か。


「悪い、魔法陣が金色になったのは分かったが、エリシャが何をしたのか分からないんだ。」


「あ、そっか……。魔力感じられないよね……。えっと、神が自身の力を分け与えた異能を、私が回収したの。あの神と近い存在だから出来る事なんだけど……。」


「じゃあ、あの転移みたいな能力が使えるようになったのか?」


「ごめん、そういう訳でもなくて……。この魔法陣に定着させて、魔法陣の力を強めただけ。私が強くなった訳じゃない。」


 何だろう、エリシャが証拠を見せようとしている事は分かる。分かるんだが俺に伝わらない。だけど信じないと始まらないし……よし!


「悪い。まだ俺はエリシャが神様って事を本心から信じられない。ただ、信じないと始まらないから、取り敢えず信じる。それでもいいか?」


 確かに、俺の直感みたいなものは消えている。それに話もおかしい所はないし、信じられないっていうのは俺の常識に照らし合わせた、ただの感情だ。だから、エリシャを信じてみようと思う。その思いを伝えたが……。


「……うん。取り敢えず本当の事として扱ってくれるなら、それで良い。私だって条件付きでしかあなたの事を信じてない。お互い様。それでも良ければ、これからよろしくお願いします。」


 取り敢えず、互いに信用は出来たみたいだ。


「ああ。よろしくお願いします。」

次から魔法がやってきます。

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