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二話 形影繋ぐ赤い糸

 何だろう、前が明るい。俺は、えっと、そうだ、確か異世界に来た筈で、そしたら視界が暗くなって……此処は、何処だ?


 前は暗いけど、オレンジ色の丸い物がある?違う、あれはシャンデリアだ。陽に照らされているのか。それじゃあ、俺は寝ているのか?何故だ?兎に角起きなきゃ駄目だ、体を起こして……


「起きた、の?」


 そっちを向いた。思考が止まった。


「さ……よ?狹夜?狹夜だよな?」


 中学二年からずっと会いたかった。顔立ちは大人びてるし、髪は白い。瞳は金色になってるけど、狹夜だ!魔王だ!ずっと会いたかったんだ。魔王だ。違う、これは幻覚か?分からない。魔王だ。狹夜に触れたい。幻覚じゃ無いか確かめたい。


「えっ、違、違う!」


 魔王だ。声も狹夜だ。髪と目は何があったんだろう?魔王だ。手を伸ばせば触れれるのか?ただの幻覚か?狹夜の存在を感じたい。手を伸ばして、


「っ!やめて!」


 手が前に出なくなった。これ以上前に出してはいけないと、本能が知らせている。すぐそこに狹夜(魔王)がいるのに、進めない。何故だ?


「良かった。隷属の呪いが効いてる。貴方は、私を殺せないよ。」


 隷属?支配されているのか?狹夜に?魔王だ。そもそも本当に狹夜なのか?落ち着いて見るとずいぶん違う。だけど、顔立ちは確かに狹夜だ。でも魔王だって直感がある。これが、神様の言っていた直感か?無理矢理思考にねじ込まれるみたいで気持ち悪い。


 じゃあ、確認しよう。俺は、この魔王(狹夜)を殺すのか?


「お前は、狹夜じゃないのか?」


 狹夜だと言ってくれ。頼むよ。頼むから。


「……うん。そんな名前は知らない。」


 ……そっか。そうだよな。


「じゃあ、魔王なのか?」


「っ、違う!私は、魔王なんかじゃない!」


 ああ、良かった。


「じゃあ、殺さなくて良いんだ。良かった。」


 彼女は目を逸らした。本当に、殺さなくて良いんだったら良かったのに。彼女は、確かに


「………………分かってるでしょ。」


 魔王だ。


 彼女は左を向いた。


「こっち。」


 夕陽に照らされた顔は、やはり狹夜にそっくりだった。



 それは兎も角ついていきたいんだが、さっきやめてと言われてから前に進めない。


「前に進めないから、どうにかしてくれ。」


「ああ、そっか。……はい、これで良いよ。」


 自由に動けるようになった。どうやっているんだろうか?まあいいや。周囲を見回して、此処が教会だと気づく。大きなステンドグラスが……いや、あそこで見た奴ほどじゃないけど。まあ、それがある。椅子の類いは一切無い。埃っぽい石作りの床に、割れた窓から光が射し込んでいる。割れたガラスがその辺に落ちているから、気を付けないと足を切りそうだ。


「こっち。」


「ああ、悪い。」


 周りを見すぎて怒らせたみたいだ。俺に背を向けて歩きだしている。直感は、彼女を魔王だと認識したことで止まったみたいだ。まあ、とっとと行かないと。だが、一歩進んで違和感を覚える。さっきまで誰もいなかった筈なのに、誰かいる。その誰かは、何故ナイフを持ってる?


「おい、横!!」


 彼女の左に女が現れて、ナイフで差そうとした。一言で言えばそうなる。兎に角止めないと駄目だが、遠い。彼女は気づいていない。俺の声に反応して後ろを向こうとするが、そっちじゃ無い。ただ、大声は無駄じゃ無かった。女も俺の声に驚いてこっちを向いた。そして、その時間があれば十分間に合う!


「お前、何しようとして……!」


 右手でナイフを持つ手を掴み、持ち上げる。流石に女に負けるほど柔じゃ無い。こいつ、高校の制服を着ている。今更気付いたが俺も制服姿だ。兎に角このまま押さえ付けて、


「邪魔しないで!」


「ふざっ、けんな!」


 右手がほどかれて、ついでに掌を切られる。だが、反射的に相手を蹴って距離が出来た。今のうちに追い詰めれば、


「守って!」


 後ろから声がした、と思った瞬間進もうとした体が止まる。命令は一瞬で解除されたが体勢は崩れた。相手も起き上がった。


「ぁ、ごめん……。」


「おう。」


 今のタイミングが絶好の機会だったがが、仕方が無い。それに、こうして相手の顔を見て気付いた。こいつ、あの優しそうだった子だ!今は完全に殺気立っているが……。


「何で邪魔するの!」


 その言葉の答えは一つだった。何故この魔王を守るのか?狹夜の顔をした奴が、殺されるのが嫌だからだ。


「――そっか、私に殺されると困るのか。貴方がそいつを殺したいんだ?譲ってって言ったら譲ってくれる?」


 そうだな、お前に殺される訳にはいかない。


「理由なんて勝手に付けてくれ。それと、譲る訳無いだろ。」


 それに、さっきから掌の血が滴ってるんだ。


「そう。じゃあ、ごめんね。」


 頼む!〖心に千々の毒花を〗、期待してるから応えてくれ……!


 飛ばした血は綺麗に飛んで、此方に襲い掛かろうとする女の顔に染みを作る。


「痛いいいぃぃ!!?!?!」


 期待以上!思ったより痛そうな悲鳴で、罪悪感はあるが、チャンスだ。顔を押さえている女は、ナイフを持っている。その手を血だらけの右手で掴めば、


「ーーーーーーーーっあああああっっっっ!!!!!飛んで!」


 女が俺の後ろ、彼女のいる方を睨み付けて叫ぶと、掴んだ筈の女の腕の感覚が無くなった。後ろから物音がしてそっちを向くと、彼女の側に女がいて、ナイフを振り下ろした。


 神殿に絶叫が木霊した。それに突き動かされるように前に進んだ。しゃがみこんだ彼女の頬と肩が赤くなっていく。狙いが逸れたのか、まだ無事だ。無力化なんて考えたら駄目だ。


 ナイフを持ち変えてもう一度振り下ろそうとする女。その肩を掴んで押し倒す。右脇腹に熱が。ナイフが刺さっている。かなり深く。それでも押さえなくちゃいけない。


 よく分からない叫びが俺の口から溢れ出す。女も叫んでいる。脇腹の血がかかったのか。だが、これが致命傷にはなりそうに無い。何か、武器になりそうなものは……ガラス片がある!掴んで、痛っ、手が切れたのは良い、女の喉に刺す!


 深く突き刺さったガラス片。喉から溢れる血が白い制服を汚す。女の口が開くが音は出ない。代わりに血が吐き出される。目は俺を睨み付けている。ナイフがもう一度俺の腹に刺さって、深くねじ込まれ、そして落ちた。



 後ろを向くと、すぐ側に彼女が来ていた。どうやら無事みたいだ。それを確認した途端、酷い痛みを感じた。体から力が抜けていく。前が真っ暗になって倒れる。最後に聞こえたのは彼女の声。まだ、彼女を守りたい。そんなことを思いながら、頬に死体の温もりを感じて意識が暗転した。

次からしばらくほのぼのします。

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