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6話 手ひどくフラれる日々


 始業のチャイムが鳴り響いている。

 それなのに、玄関で出迎えてくれたあの子はまだ教室に来ていない。


 まさか具合でも悪くしたのだろうか。それとも道に迷って……そんなわけないけど。

 オレに対して好意的な女子第一号となった、愛しの大宮みつるちゃん。


 心配すぎるし、心配で大人しく着席出来ないぞ。

 ああっ、席を立ちたい。だけど担任が来ちまう。どうしよう、どうすれば。


『八潮しゅん! どうしました? 何故一人で立っているのです?』


 くそぅ、そうこうしていたら担任が来ちまった。

 ここは言い訳しても仕方がないので、潔く認めよう。


『はい、もう居ても立っても居られなくて、ずっと立ちっぱなしになりたかったんで――』


「うっわ、マジきもっ……」「嘘でしょ、我慢できなくて立たせてるとか最低すぎる……」などなど、何やら別の意味で誤解をされておられるようだ。


 そっちの意味じゃないのに……潔さをはき違えたのか。


『んんっ……そこまで我慢が出来ないなら、トイレに行っては? それとも保健室に……?』

『ああぁぁ、い、いいえいえいえ!! ひ、一人で行けますからっ!!』


 「一人でしろよ、ボケが」「キモオタ帰れ」とか、オタクじゃないんだが。

 だから意味が全然違うのに、なんでこうなるんだよ。


 ううっ、ちくしょう。こうなったら悔しいけどトイレに猛ダッシュしてやる。

 勢い任せに教室のドアを開け、廊下に出て一目散に走りだした。


『うおおおおおおおおおおおおおお!!』


 決してトイレに行きたかったわけでもなく、トイレで泣く思いでわき目も振らずに全力疾走。

 元女子高ということもあって、男子トイレは端のはじ。


 とにかくゴール直前にラストスパートをかけるような選手のごとく、走った。

 

『――やっ……!?』

『えっ?』


 ズドーン……などと、エフェクトに出そうなくらいの衝撃音がお互いに鳴り響く。

 見ると見たことのある女子が、オレの顔の真下に存在している。


 あれ、これはもしや馬乗りになっているというやつでは。

 こんな所を誰かに見られでもしたら、教室での誤解が現実のものとなってしまうじゃないか。


 よく前を見ずに全力疾走したオレもあれだが、この女子……大宮は一体どこから出て来たのだろう。


「あのっ――! いつまで鑑賞してるんですか? それとも妄想で自慰でもしてるんですか? どうでもいいけど、さっさと……」

「か、鑑賞だなんてそんな……。妄想でも無いし……というか、みつるちゃんだよね? もう遅刻確定だよ? 今まで一体どこに――」

「――っざけんなよ、この野郎!! 何勝手に『ちゃん』付けで呼んでんだよ!?』

「えぇぇぇ? だ、だって、オレのことが好きって」

「……ああ、そうでしたね。それじゃあ、起こしてもらってもいいですか?」


 おぉ、このままの姿勢で何か言うのは色々やばい。

 大宮さんの手を掴み、起き上がらせることに成功。


「で、えっと返事のことなんだけど」

「八潮しゅんさん! 目をつぶってくださいっ!」

「え、目を?」

「早くして欲しいなぁ」


 これはもしや、キスというサプライズをお見舞いしてくれるのでは。

 ドキドキばくばくさせて、その時を待つ。


『ぽげらぁっ!? うげげっ!? な、なん……は、歯が歯が……』

『不意打ちで犯すつもりで待ち伏せとか、最低野郎!! 八潮しゅんなんか、嫌い! 大っ嫌い!! そのまま歯医者に消えろ、バカ野郎!!』

『ぽげげげ!? ひょ、ひょんなぁぁ~』


 あれ、悪夢のリピート再生なのかな、これは。

 オレのことを好きって言ってくれたのに、気付けば馬乗りくらわして気付けばぶん殴られて。


 そしてあっという間にフラれたよ。

 しかも歯医者に行けとか、優しすぎるじゃないか。


 そのまま帰っていいならそうしたいが、どうすればいいんだ。

 そう思っていたら、アプリの通知音。


『八潮しゅんくん、あなたは無事にフラれました。耐性が上がりましたね、おめでとうございます! 二人目の妹が出来るまで、どんどんフラれましょう! 教務課より』


 え~……教務課って、どれだけ監視されてんのオレ。

 しかも殴られ損だし、あの子は妹じゃなかったみたいだし。いや、普通のことだけど。


 フラれまくったらハーレムになるとか、そんなわけないよな。

 悔しいけど、歯医者に行くしかない……うう、痛い。心も歯も痛すぎる。

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