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テレーシアが怖い 6

次話で最後です。

明日の同じ時間帯頃に投稿しますので、どうか最後までお付きあいください。

 夕食も終え、お風呂から上がり、後はいつものように部屋へと引きこもる。


 愛すべき恋人(いもうと)エリーに髪を梳かしてもらっている。彼女に身を委ねている時が、本当に心地よく幸せな時間だ。


「そういえばエリーはどうだったの、今回のこと」


「どうとは、どちらのことを指しでいるのですか、クリス姉様?」


 主語を抜いてもわかると思ったのだが、抜きすぎた結果、通じなかったようだ。


「そうね、まずはテレーシアさんの変わりようかしら」


「少し驚きましたが……ああ、テレーシア様はこういう風に変わられたのか、と思ったくらいですね」


 恐怖の体験をした彼女らとは対照的に、エリーの感想はそれだけだ。あの変わり身を少し驚いたで括っているエリーに、あの二人はそれはそれで驚いたようだ。


 『なんでそんな簡単に受け入れているのよ』と二人は詰め寄ったらしい。エリーはそれに『こんなこともありますよ』とだけ返して『ないわよ!』と叫ばれたそうだ。


 もうエリーを相手しても埒が明かないとばかりに、恐怖体験を私に語ったのが流れであったそうだ。


「二人が怖がるのは当然だと思いますが、わたしはクリス姉様に全てお話は伺っていましたから。クリス姉様を友人として受け入れたのなら、あのくらい変化がないと追いつきません」


 まったくもってそのとおりだ。


 エリーは正しくテレーシアの変化を受け入れている。ならこれ以上、この話で盛り上がることはないだろう。


「じゃあ次ね。今回のエイミー騒動についてはどう思っていたの?」


 恐怖体験のキッカケとなった、エイミー騒動。


 テレーシアが言う通り、エリーほど聡明な娘なら、今回の全容に辿り着いていただろう。それを今回、どういう思いでずっと見てきたのか。


「エイミーさんのことについては、メイさんやヴィルマさんと、どうしようかと話し合ってはいたんです。彼らの前では気丈に振る舞っていましたが、ふとした瞬間、暗い顔をしていましたから。裏で意地悪されているなとは察していました」


「そうよね。小耳に挟んでいた私でも心配になったもの。傍にいた貴女たちが気づかなかった訳がないわよね」


「一人のところを声をかけようとしたのですが、必ず彼らが湧いてきますから。強引に連れて行かれたら、こちらも為す術もありません」


 湧いてくる、という表現が面白かった。エリーの口から出たとは思えない。それがきっとエリーにとっての彼らへの評価なのだろう。


「だからといって、確認できていない今の現状を彼らに伝えても、通じるとは思えません。『僕のエイミーが、そんな隠し事するわけない。むしろおまえたちが彼女を僻んでいるだろ』って言われてそれでお終いです」


「そうしたら益々彼女に近づけなくなるものね。なにより、あんな男たちに恋慕しているなんて不名誉を押し付けられるのは、我慢ならないわ」


「ええ、そんな酷いレッテルを押し付けられた日には、クリス姉様に泣きついて、手袋を投げてもらいます。私の恋人(いもうと)は、こんなに趣味が悪くないって」


 エリーの辛辣さにはお腹が痛い。確かにエリーがそんな不名誉な女扱いされれば、私は憤って学園に乗り込んだであろう。


「そうなると最後は、現場を取り押さえるしかないのですが……エイミーさんとはほとんど口を聞いたことがないのです。冷たい話になりますが、そこまで骨を折ってまで、彼女を助けようとするのも違いますからね」


 いいや、冷たいことではない。


 エリーは伸ばされた手を振り払ったのでもなく、目の前にある不幸を横目にして通り過ぎた訳ではないのだ。


 表面上は何も起きていない。あくまで裏で起きているかもしれない可能性のために、エリーたちが躍起になる必要などないのだ。


 どれだけ気が弱くあろうと、助けてもらいたいのならエイミーが手を伸ばすのが筋である。冷たいかどうかは、伸びてきた手にどう対応したかによってようやく決まるのだ。


「クリス姉様ならそれこそ、エイミーさんの手を強引に引っ張っるのでしょうけどね。彼らの苦情に対しては、手袋をひけらかして黙らせる。僻みだろという負け惜しみに対しては、トールヴァルト様と比べて鼻で笑うだけで済みますもの」


 流石今日まで愛し合ってきた仲である。エリーの答えは百点満点。私はそうやって、彼女を助けようとするだろう。女の子が目の前で困っているのは見過ごせない。


「そうね。私ならきっとそうするわ。でもこれはこれで、百点満点の行動ではないのだけどね」


「腐ってもあの方々は、エイミーさんにとって悪い縁ではありません。身分の差を持ち出せば、信じられないほどの良縁です」


 今度こそエリーの辛辣な台詞に吹いてしまった。


「あの人達は腐ってるの?」


「はい、お目々が腐っているから自分のことしか見えなかったのです」


 今度は二人一緒に吹き出した。


「私が助けたならきっと、素晴らしい未来の可能性を一つ消してしまったでしょうね」


「ええ、クリス姉様ならば悪意からは守ることができたでしょう。でも、視力が回復した彼らとの未来を両立させることはできません。七十点が良いところでしょう」


 エリーの分析は実に的確である。


 私はエイミーを守るだけで、彼らを更生させることはできない。


 悪い男たちではないのだ。学園の誰もが羨む男たち。ちゃんと正しい形でエイミーを守れるのなら、これほど素晴らしい良縁はない。


 まさに一発玉の輿だ。


 あぁ、そう考えれば考えるほど、感服する。


「やっぱりテレーシアさんはとんでもない人ね。ちょっとした出先で目に付いた問題を、全部解決してしまうなんて」


「全くです。わたしたちがずっと悩んでいた問題を、十分もかからず解決してしまうのですから。流石はテレーシア・フォン・グランヴィスト。天下の公爵令嬢ですわ」

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